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【コラム】西部謙司

Jリーグの進化

[ 2020年8月5日 15:00 ]

 昨季のJ1は、GKも含めて自陣からパスをつないでいくビルドアップに進歩が見られた。MFがディフェンスラインに下りて数的優位を作る、サイドバックが内側にポジションをとるなど、ビルドアップにおける形状変化はほぼすべてのチームが使っていた。

 ビルドアップが上手くなったということは、次に傾向として表れてくるのは守備の変化、とくにハイプレスの強化である。

 再開後の第2節からの7連勝で首位に立った川崎フロンターレは、4-3-3にシステムを変更し、ビルドアップとハイプレスの両面で効果を出している。ビルドアップで形状変化をあまり使わない川崎だが、4-3-3は技術があればパスをつなぐにはバランスがいい。また、前方から守るにはインサイドハーフが前に出れば5レーンをすべて埋められるので、こちらも効率よくハイプレスができる。4-3-3とチームの特徴が合っている。

 ハイプレスでは北海道コンサドーレ札幌も強度がある。3-4-3のいわゆるミシャ式は昨季と同じだが、FW3人が駒井善成、荒野拓馬、チャナティップなので、登録上はFWが1人もいないという構成だ。札幌はマンツーマンでパスの受けどころをすべて抑え込む守備を行っている。マンツーマンなら、相手がビルドアップで形状変化しても影響はない。ビルドアップの上手い横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸はともに札幌のマンツーマンプレスによって、思うように組み立てができなかった。

 ビルドアップのほうは、札幌はもともと上手い。形状変化も他チームのように決まった形に頼らず、ランダムにさまざまな形を使っていた。ビルドアップとハイプレスという今季の戦術的なポイントに関しては、冒険的で興味深いプレーをしている。

 ビルドアップに対してハイプレスとは違う守備をしているのがセレッソ大阪だ。ロティーナ監督の2年目ということもあって、堅守の戦い方が浸透している。C大阪はハイプレスでビルドアップを破壊するよりも、あえて運ばせて、相手を引き込んでからのカウンターが上手い。守備の安定感は今季も健在だ。攻撃では左右非対称の形状変化で選手の特徴も上手く引き出している。

 名古屋グランパス、清水エスパルス、浦和レッズなど、戦術的な変化と進化を試みているチームが多く、昇格組の柏レイソル、横浜FCも安易に守備的なプレーをせず、自分たちのスタイルを持っている。

 期せずして降格のないシーズンになったわけだが、それも各チームのチャレンジという点ではプラスに作用しているのかもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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