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【コラム】西部謙司

五輪サッカーの特殊事情

[ 2020年1月22日 07:00 ]

 U-23アジア選手権、U-23日本代表はグループリーグ敗退となった。しかも最下位で、プレー内容も芳しくない。森保一監督は解任されても不思議ではない内容結果だった。しかし、JFAは早々に続投を決定している。

 今回のU-23アジア選手権は東京五輪アジア予選を兼ねていた。上位3つの国が出場権を得られる。日本は開催国なので出場権があるが、本来なら最低でもベスト4に入らないと面目が立たない。グループリーグ敗退ではメダル獲得など夢物語である。それでもJFAが監督解任を検討さえした形跡がないのは、それなりの事情がある。

 五輪はワールドカップと違って、FIFAとしては年代別大会の位置づけになっていて、基本的に年代別代表選手の招集には拘束力がない。つまり、五輪本大会に選手を招集できるかどうかは不透明で、年代別代表としての強化試合も同様の扱いになっている。

 日本の場合はJリーグが協力的なので招集を拒否することはないが、外国のクラブはそのかぎりではない。日本の五輪世代にも欧州のクラブに所属する選手が増えているが、彼らを呼べるかどうかは個別の交渉しだいだ。

 そこで、五輪代表候補の強化は2本立てになっている。

 招集に支障のない国内組を中心としたチームと、欧州組を含むチームだ。これまで国内組を横内昭展コーチが担当し、森保監督は主にA代表監督として五輪世代の欧州組を拘束力のあるA代表試合に招集している。拘束力こそアジアカップとの関連で生じなかったものの、コパアメリカには欧州組を招集して、A代表の体裁ながら実質的に五輪代表に近いチーム編成を行っていた。

 U-23アジア選手権は国内組の集大成と位置づけられる大会だったが、今回の惨敗によって柱の1本は折れた格好だ。ただし、もう1本はまだ残っている。五輪代表は18人編成だ。GK2人を国内組として、オーバーエイジが3人とすると残りはフィールドプレーヤー13人になる。現在、五輪代表候補になりそうな欧州組は10人以上いるので、国内組から選ぶフィールドプレーヤーは3人程度。もちろん希望の選手をすべて招集できる仮定ではあるが、呼べるのならば国内組の不出来はあまり関係がない。そしてもう1つの柱を担当してきたのが森保監督で、短期間とはいえこれから本格的にチーム作りをする。だから、このタイミングでU-23アジア選手権の責任をとらせて解任という考えがJFAにはないのだ。

 これから五輪本番までの短期間のみで引き受けてくれる監督もいないだろう。A代表と兼任ならべつだが、そうすると森保監督をA代表からも解任しなければならない。しかし、その理由が今のところない。あの結果と内容で監督が解任されないのは不思議なようだが、五輪の事情を鑑みると不思議ではないわけだ。(西部謙司=スポーツライター)

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