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【コラム】西部謙司

スーパーリーグ構想瓦解へ

[ 2021年4月21日 18:00 ]

<チェルシー - ブライトン>20日本拠スタンフォード・ブリッジの前で、チェルシーの欧州スーパーリーグ参戦に反対するファン
Photo By AP

 欧州サッカー界を揺るがしたスーパーリーグ構想は短期間に瓦解(がかい)へ向かっている。

 スーパーリーグ(SL)への参加表明をしていた12クラブのうち、イングランドの6クラブが脱会。プレミア勢なしで成立させるのは困難だろう。

 SLはビッグクラブが収益を上げようと画策したプランだ。これが実現するとUEFAは大きな資金源であるCLを失う。既存の秩序を破壊する案でもあるわけだが、儲けようとするビッグクラブと既得権を死守しようとするUEFA、FIFAの対決だった。

 SLの準備金はJPモルガンが貸し出す手筈だった。リバプール、マンチェスター・ユナイテッドのオーナーは米国人、ACミランも米国ヘッジファンドのエリオット・マネジメントがオーナーである。SL構想の根本にあるのは、ヨーロッパサッカーがすでに投資対象になっているということ。米国の投資家を中心にサッカーは「儲かる」と見られている。だが、もっと儲かるはずだということでビッグクラブ同士の対決を閉じたリーグ内で連発させるSLを強行したいというわけだ。考え方がいかにも米国的だと思う。

 コロナ禍で抱えた損失を何とかしたい事情、UEFAによる運営への不満が重なって、12クラブが案に乗った。動機は紛れもなく「お金」だが、UEFAやFIFAの役員が私服を肥やしていたのに比べればはるかにマシとはいえるかもしれない。スーパーリーグの新会長になる予定だったフロレンティーノ・ペレス(レアル・マドリー会長)は「サッカー界を救うため」と話していた。

 ワールドカップなどの大会からビッグクラブのスターを締め出して損をするのはビッグクラブではなくUEFAやFIFAなので、この脅しは効力がない。ビッグクラブ側にはそれなりの勝算があったのだろう。だが、SL構想は疑問だらけだった。

 まずファンが納得していない。12クラブのファンからさえ支持されていない。選手や監督からも続々と批判の声があがっていて、結局これが致命傷になった。

 フランチャイズがロンドンに3つ、マンチェスター、マドリード、ミランに2つずつという偏り。そもそもFIFA、UEFAを離脱するなら審判をどうするのか。ビッグクラブの対戦でも降格のないリーグで好試合になるのか。同じく離脱した場合に移籍ルールはどうなるのか。離脱しないなら収益の配分はどうなるのか、「サッカー界を救う」ならSLに参加していないクラブにも配分するのか。さらに国内リーグとの契約など、わからないことだらけ。

 1950年代、コロンビアはFIFA管轄外の海賊リーグを発足し、欧州や南米からスターを集結させて「エル・ドラド」(黄金郷)と呼ばれた時期があった。いっそのこと、SLは米国に新リーグという形で立ち上げればよかったかもしれない。マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナなどは従来どおり地域に残る。選手は抜けてしまうがクラブは残り、文化も破壊されない。MLSは迷惑だろうが、スーパーリーグが軌道に乗ればかつての北米リーグ以上の盛況になる。コロンビアのように5年で終結ということもなかったのではないか。

 莫大な負債を負ったビッグクラブは起死回生の一手に失敗、ファンの信頼も失った。一転、窮地に陥るかもしれない。自業自得ではあるけれども。(西部謙司=スポーツライター)

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