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【コラム】西部謙司

チュニジアに完敗のモヤモヤ

[ 2022年6月15日 22:15 ]

<日本・チュニジア>後半、3点目を奪われ、ガックリする吉田(手前左)ら(撮影・坂田 高浩)
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 キリンカップ決勝のチュニジア代表との試合に0-3と敗れ、ワールドカップへの強化試合4連戦は2勝2敗で終了。次にベストメンバーを招集できるのは9月だ。

 日本代表の3失点にはすべてキャプテンの吉田麻也が関係していた。

 1点目は背後へ抜け出されたところをスライディングで止めに行ってPKを献上。板倉滉がカバーに入っていたので、吉田は直接追走するのではなく板倉のカバーに回ればよかったのだが中途半端に追いかけた末にファウルしてしまった。

 2点目は相手のゴールキックが吉田の頭上を越えて背後に落下、チュニジアのFWは吉田と競り合って転倒していて、この時点では全く危険な状況ではない。ところが、バウンドするボールに吉田、板倉、GKシュミット・ダニエルの誰も積極的に関与しようとせず、いわゆる「お見合い」になった間に追走してきたチュニジアの選手にボールを奪われてラストパスを出された。

 3点目は吉田がハーフウェイライン付近でルーズボールを拾いきれず相手ボールになったところでカウンターになっている。

 9月の試合で、吉田は何事もなかったように先発で起用されるのだろうか。ふと、そう思った。4連戦すべてに先発起用された吉田と遠藤航は、おそらく森保一監督にとって特別な選手なのだろう。そうするとやはり吉田は起用されるような気がするのだが、それでいいのだろうか。ちょっとモヤモヤする。

 かつてあるGKコーチは「自分の中で優先順位は明確だ」と話していた。実力伯仲といわれた2人のGKがいたのだが、専門家からみればどちらがファーストチョイスかは決まっていた。たとえ致命的なミスを犯したとしても評価に揺るぎはない。しかし一方で、サッカーはミスのスポーツでありミスが明暗を分ける。実力があればいくらミスをしてもいいとは到底ならない。良いプレーができなければ、別の選手に取って代わられるのが競争というものだ。代表チームともなればなおさらだろう。

 吉田は日本代表の精神的支柱で、キャプテンであり、不可欠で絶対的な存在なのだから、ミスの1つや2つや3つが何だというのもわからないではない。9月になれば世間はチュニジア戦のことは忘れているだろうし。でも、立て続けに3つも失点につながるミスをするセンターバックがそこまで絶対視されていて、ミスも不問に付されるとしたら、それも何だかおかしい気がする。そんなに人材不足でもないはずだ。控え選手の立場で考えると、やはりかなりモヤモヤする。

 もしかしたら、森保監督は9月の緒戦で吉田を外すかもしれない。それならスッキリはする。ただ、過去の日本代表のワールドカップを振り返ると、大会前にモヤモヤして、さらに紛糾し、絶体絶命的な雰囲気になってから開き直ると、戦績が良い傾向がある。どうせならもっとモヤモヤしたほうがいいかもしれない。つまり、現実を直視して膿を出し切るぐらいまで危機感を持ったほうがよさそうに思える。(西部謙司=スポーツライター)

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