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【コラム】西部謙司

ラングニックとマンチェスター・ユナイテッド

[ 2021年12月14日 12:30 ]

マンチェスター・ユナイテッドのラングニック暫定監督(右)とFWロナウド
Photo By スポニチ

 ラルフ・ラングニック暫定監督の初采配となったプレミアリーグ第15節、マンチェスター・ユナイテッドは1-0でクリスタルパレスに勝利した。「暫定」なのは、来季からディレクターになる予定だからだ。ラングニックは強化の仕事を請け負うコンサルタント会社を設立していて、ロコモティブ・モスクワを顧客にしていた。ロコモティブとの契約を解消してマンチェスター・ユナイテッドに来たが、もともとの目的は強化コンサルタントなのだ。

 監督としてのラングニックにさほど輝かしい実績はない。しかし、強化責任者としての手腕はザルツブルク、ライプツィヒのレッドブル・グループでの働きが高く評価されている。

 ラングニックは戦術書を作ってレッドブル・グループ内で共有していた。「8秒以内にボールを奪い、10秒以内にフィニッシュする」というフレーズは、ラングニックの指向するサッカーを端的に表している。

 かつて日本代表を率いていたフィリップ・トルシエ監督がよく似た考え方をしていた。トルシエ監督は「15秒もボールをキープするのは現実的ではない」として、トレーニングではパスが何本もつながると中断させていたことすらあった。「20秒の攻守を100回行うのが現代のサッカーだ」という考え方は、ラングニックとそっくり。2人とも1980~90年代にかけてACミランが行ったプレッシング戦法の洗礼を受けた世代なのだ。

 ラングニック暫定監督下のユナイテッドには、そうした考え方の影響が多少出ていた。攻撃から守備への切り替えの速さ、1本のパスで相手ディフェンスラインの裏をつく攻撃は、ラングニックのチームらしい。ただ、練習時間もほとんどないので、そんなに大きな変化ではない。ラングニック色が表れるのはこれからで、来季に新監督を迎えてからが本番なのだろう。

 ラングニックの戦術とマンチェスター・ユナイテッドの相性は悪くないと思う。すでに似たスタイルをユルゲン・クロップ監督が導入したリバプールは上手くいっている。インテンシティの高い攻守がめまぐるしく連続するのは、もともとイングランドサッカーが持っていた特徴と合致している。

 強化方針の外注というと異色な感じだが、ジョゼップ・グアルディオラ監督にチキ・ベギリスタインがフットボール・ディレクターのマンチェスター・シティも強化の外注と言えなくもない。昨季のウォルバーハンプトンはポルトガル人のエージェントが監督と選手を集めてきてポルトガル色の強い編成だった。こちらは仲介人による強化だ。トップクラスのサッカーはもはや素人には扱えなくなっている。かつてはワンマン会長が幅を利かせる時代もあったが、それはもはや過去の話なのだろう。(西部謙司=スポーツライター)

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