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【コラム】西部謙司

問われる本物の対応力

[ 2019年2月14日 14:00 ]

報道陣の質問に答える森保監督(撮影・沢田 明徳)
Photo By スポニチ

 アジアカップのキーワードは「対応力」だった。対戦相手や試合展開に対応し、ポゼッションすることもあればカウンターを狙うこともあった。決勝までの6試合を全勝できたのは対応力のおかげだった。

 アジアでは圧勝しなければワールドカップでは戦えないという意見も聞くが、実際のところアジアで圧勝することとワールドカップを勝ち抜くのは別である。2011年、日本は「アジアのバルセロナ」と呼ばれたプレースタイルで優勝している。しかし、それは「アジアの」であって本物のバルセロナとは違う。ワールドカップの舞台において、得意のスタイルで押し切れるほどの力はなかった。ワールドカップを見据えると、1つのスタイルに特化しすぎるのは危険かもしれないのだ。

 対応力を高めたいという森保監督の狙いは理解できる。アジアカップとワールドカップを同じ強化方針にするのも合理的だと思う。ただし、本当に日本の対応力が上がったかというと疑問もあった。

 決勝の前半、カタールのパスワークに翻弄されて2失点。これが重くのしかかっている。フォーメーションの噛み合わせの悪さを修正できなかった。本来なら、ベンチの指示で噛み合わせるべき状況だった。スタンドから俯瞰で見ているスタッフもいたので、状況は把握できていたはずだ。しかし、森保監督は動かなかった。わざと動かなかったのではないかと思う。

 引いて守るのか、前からプレスするのか、ボールを保持するのか、相手に持たせてしまうのか・・対応の仕方はさまざまだが、時間帯や点差や相手の特長を考慮すると、およそやることは決まる。しかし、おそらくカタール戦はプレスするつもりだったのにハマらなかった。中盤中央が2対4になっていたからだ。これは予想外の展開だったに違いない。本当の対応力が問われる状況だった。だからこそ、あえて動かなかったのではないか。

 カタール戦については、フォーメーション変更なしに(ベンチの指示なしに)とれる対応としては撤退しかない。一時的に引いてスペースを埋めてしまえば噛み合わせの悪さは問題にならないからだ。だが、選手たちはそうしなかったので、悪循環になってしまっていた。

 この試合に関して言えばベンチワークの失策である。ただ、選手に馴染みのある4-4-2の中で、あまり細かい約束事なしに対応していくのが基本方針だとしたら、森保監督の姿勢は一貫していたといえる。決勝にかぎらず、攻守ともにディテールを詰めていないと感じられる場面は少なくなかった。サンフレッチェ広島を率いた森保監督なら承知しているディテールを導入していないのは、時間不足もあるかもしれないが、あえてやらなかったとしか考えられない。

 海外組で占められていた今回のメンバーとはいえ、所属クラブで対応の判断まで担っている選手はおらず、意外と対応力が低かったということなのだろう。今後はチームとしてのディテールをもう少し詰めたほうがいい。選手は入れ替わっていくとしても、最低限チームとしてやれるディテールを明示し、そのレベルを上げ、誰が入ってもそのぐらいはすぎにできるという状態にしていかないと、本当の対応力は上がっていかない。(西部謙司=スポーツライター)

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