【コラム】西部謙司

リバプールと近未来のサッカー

[ 2019年11月14日 18:00 ]

マンチェスター・シティーに勝利して、サポーターの声援にこたえるリバプールのクロップ監督
Photo By AP

 プレミアリーグ第12節、リバプールがマンチェスター・シティを3-1で下している。世界最高レベルの対決であり、異なるスタイルの激突でもあった。

 プレミアリーグはもともと試合のテンポが速いことで知られているが、この試合はとくに速かった。この調子でいつまで続くのかと思っていたが、ラスト10分まではほぼ変わらなかった。そして、その80分間はリバプールのペースだった。しかし、試合のテンポが通常のプレミア仕様まで落ちた最後の10分間はシティのゲームになっていた。

 ある程度までのテンポならばシティに優位性があるが、それを超えるとリバプールが有利になる。これは両チームのプレースタイルと方向性をよく表している。

 シティはGKからもパスをつないで丁寧に攻め込んでいき、意図したポジショニングと連係に個人技と即興を織り交ぜて最後の30メートルを崩していく。一方、リバプールは後方のビルドアップをさほど重視せず、スペースを消される前に攻め込んでいく。ロングパスが多くなるのでロストも多いが、縦への勢いを生かして即時にハイプレスを仕掛けてボールを奪回し、波状攻撃を続ける。そのため、リバプールのリズムになると試合のテンポは非常に速くなるわけだ。

 シティ戦ではリバプールがいつになく後方からビルドアップしようとしていたが、これはおそらくシティがハイプレスを仕掛けてくると想定していたからだと思う。後方でつないでハイプレスを誘い、シティが前がかりになったところでひっくり返していった。ハイプレスをせず引いて守り、リバプールが使いたいスペースを消すという選択肢もシティにはあったはずだが、グァルディオラ監督は自分たちのスタイルを崩さなかった。いわば、リバプールの誘いに受けて立ったわけだが、それで試合のテンポがリバプール向きになってしまった感はあった。

 ともあれ、リバプールの選手たちのスピード、体のキレ、ダイナミズムは強烈だった。あの嵐のような攻守に呑み込まれて戸惑わないチームはないだろう。リバプールはサイドバックからサイドバックへのサイドチェンジを多用する。あれをやられると守備側は後退せざるをえない。プレッシングはボールのあるほうへ人を集めて強度を高める戦術なので、逆サイドのサイドバックにはまずマークをつけないからだ。そこへ展開されてしまえば陣形を修正しなければならず、その間にかなり入り込まれてしまう。サイドバックからサイドバックへの展開は非常にシンプルだが、キックの速度と精度がなければ成立しない。ロバートソン、アレックス・アーノルドは、その不可能の壁を超えてしまった。

 もし、リバプールのスタイルが近未来のスタンダードになるとすると、Jリーグのクラブや日本代表は果たしてそれについていけるだろうかと考えてしまう。日本人はもともとテンポが速いほうではあるが、精度とパワーについてはかなり心許ない。ハリルホジッチ監督が代表に導入しようとして失敗したのをみても、そう簡単にものになるとは思えない。現時点でリバプールのサッカーをやれるのはリバプールだけだが、進化の流れは思いの外早いものだ。この流れに追随するのか、それとも巻き込まれない策をとるのか。そう遠くない未来に直面する問題かもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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