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【コラム】西部謙司

森保監督に必要なのはアドバイザーよりコーチ

[ 2023年1月3日 12:00 ]

日本代表森保監督
Photo By スポニチ

 日本サッカー協会は森保一監督と再契約を発表した。新たにコーチとして名波浩氏、中村憲剛氏を迎えるべく打診するという。

 カタールワールドカップではドイツ、スペインに勝利し、クロアチアに引き分け(PK負け)、コスタリカに負けという結果だった。守備を固めてのカウンター狙いに徹した3試合では負けていないが、自分たちがボールを保持したときのプレーに改善の余地があった。そこで攻撃力アップのために新たなコーチを加えたいというのは理解できる。

 ただ、疑問もある。名波氏はこれまでジュビロ磐田、松本山雅で監督を務めたが、これといって攻撃面で大きな成果があったように思えない。中村氏に至ってはまだコーチとしてのキャリアを始めたばかり。彼らへの期待はプレーヤーとしての実績ということになのだろう。

 かつての名選手をコーチとして代表チームに加える手法は、オランダ代表で採用されたことがある。1998年ワールドカップの時で、フランク・ライカールトなどがフース・ヒディンク監督の下で選手としての経験を伝える役割を担っていた。専門性の高い、実践的なアドバイスを得られるという趣旨だったが、効果のほどはよくわからない。

 川崎フロンターレの名手だった中村憲剛には、当時の風間八宏監督から学んだ「外す」というアイデアがある。アタッカーが相手DFの動きや重心の逆をついた瞬間に、絶妙のタイミングでパスを供給していた。もし、これを日本代表選手に伝えて実装できるなら、中村コーチの意味はあるかもしれない。コスタリカ戦では、相手に引かれてスペースを消された時の武器が三笘薫の個人技ぐらいしかなかった。「外す」が機能すればスペースは必要ないので、ボール保持からの攻撃力改善につながる期待はある。

 問題はそれが伝わるかどうかだ。代表チームは活動日数が非常に限られていて、クラブチームのように毎日トレーニングできるわけではない。さらに中村コーチにはまだそこまでの実績もない。ほぼアドバイスするだけで、どれほどの効果があるのかはわからない。

 磐田でN―BOXと呼ばれたシステムの中心にいた名波にしても、あれは名波あってのシステムなので、名波のいないチームで同じ効果を期待するのは無理というものだ。

 彼らが現役時代に成し遂げてきたプレーを伝えることはできる。しかし、それが伝わるかどうか、効果があるかどうかはわからない。選手とコーチは同じではなく、伝えて効果があるようにするのがコーチの仕事であって、そのためのスキルはプレーするのとはまた別だからだ。

 森保監督は継続するが、右腕だった横内昭展コーチなどスタッフの多くが去っている。監督だけが残るというのはかなり異例だ。アドバイザーを求めるのもいいが、それよりも森保監督に必要なのは本職で固めたコーチングスタッフのほうだろう。(西部謙司=スポーツライター)

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