【コラム】西部謙司

右肩上がりの法則

[ 2020年3月13日 06:00 ]

 アタランタがUEFAチャンピオンズリーグでベスト8へ進出した。毎年、1つか2つのクラブがサプライズを起こしている大会ではあるが、アタランタはセリエAの老舗クラブとはいえ、ユヴェントス、ACミラン、インテルなどと比べるとプロビンチャ扱いの小クラブにすぎない。

 2016年から率いるジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の下、毎年主力を引き抜かれながらも昨季は3位とクラブ史上最高の成績を残し、今季はCLベスト8。こちらもクラブ史上初の快挙である。

 もともと育成に定評のあるクラブだったが、ガスペリーニ体制になってからは上位に定着するようになった。クラブの総合力もあるが、監督の指導力が大きいのだろう。3-4-2-1を基調として機能性の高い攻守を披露している。

 アタランタはコンセプトが明確だ。コンセプトの下でのチームのルールも明確。だから、選手が入れ替わってもチームとしての戦い方は一定していて、熟成とともに実力も積み上がっている。早めに相手を捕まえきってしまうマンツーマンの守備、合理的なポジショニングによる安定したビルドアップなどは、選手が変わっても同じである。

 攻め込んでタッチライン際でキープしたときに、安易にハイクロスを放り込まない。何度でもやり直している。これも、おそらくペナルティーエリアの縦のラインに近いところまで運ぶことを優先するというルールがあるからだろう。こうした細かいルールがあることで、チームは人が変わっても一定の力を発揮できるし、強化を積み上げていくことができるのだ。

 ただ、コンセプトやルールが明確だからといって試合に勝てるわけではない。

 戦術では勝てない。これは古今東西におけるサッカーの現実だ。試合を決めるのはディテールである。例えば、デイビッド・ベッカムやロベルト・カルロス、あるいはアンドリュー・ロバートソンのような強力なキック力の持ち主に対して、もっと近づいてからクロスを蹴るようにというルールを科すのは意味がない。彼らはタッチライン際からでもスピードと精度のある決定的なボールを出せるからだ。独自のボールの質で試合を決められる選手たちにとって、普通の選手のためのルールは足枷にしかならない。その点で、ガスペリーニはアタランタには向いているが、おそらくユヴェントスやレアル・マドリーのようなクラブには不向きだと思う。

 JFAは日本代表のコンセプトとして「ジャパンズ・ウェイ」を掲げている。

 ところが、このコンセプトにはルールがない。ロシアW杯でいちおうの成功を収めたジャパンズ・ウェイだが、その中身は全くといっていいほど定義づけがされていない。そのときどきの監督が選手に合わせてルールを作れば良いということなのだろうが、それはいわばビッグクラブのやり方である。世界のサッカーにおいて日本はブラジルやドイツとは違う立場にいるはずで、むしろアタランタのほうが近いはずだ。右肩上がりに成長していくべきなので、プレーのルールを定め、適宜に検証を重ね、それをもって積み上げていかなければならない。コンセプトだけでは精神武装にすぎない。たとえいくぶん選手の足枷になったとしても、ルールを作っていく必要を感じる。(西部謙司=スポーツライター)

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