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【コラム】西部謙司

重要なサウジアラビア戦

[ 2016年10月27日 11:00 ]

 オーストラリア戦は1-1で引き分け。前半の守備はほぼパーフェクトだった。左右で4-3-3と4-4-2のオーガナイズを使い分ける複雑なポジショニングを丁寧にこなし、もともとパスワークが上手いわけでもないオーストラリアは完全に行き詰まっていた。後半は全体に運動量が落ちてサイドが押し込まれ、PKから追いつかれてしまったが、アウェーでドローなら悪くない結果である。

 ただ、日本はあまり攻撃できなかった。あれだけ守備に注力すれば攻撃する余力は残っていなくて当たり前だ。勝ちに行くというより、負けないようにプレーした試合だったといえる。ワールドカップ南アフリカ大会での戦い方と似ていた。ベスト16という好成績にもかかわらず、あの戦術を継承しようという意見は選手、指導者からほとんど聞かれなかったと記憶している。守備的すぎて将来性がないと思われていた。今回はW杯ではなく、アジア予選の段階でそうなっているので、なおさら失望感は強い。

 ハリルホジッチ監督は現実主義者なので、当面の試合に合わせた作戦を考える。オーストラリア戦のように守備にほぼすべてのリソースを突っ込む試合は、アジア予選ではあと1回あるかないだろう。W杯本大会ではあのような試合が増えそうだが、アジア予選は勝たなければいけない試合のほうが多い。次のホームでのサウジアラビア戦は、引き分けではなく勝利を狙う試合になる。これまで攻撃面ではあまり良いところをみせていないが、サウジアラビア戦はそれが問われることになるだろう。もちろん、相手の良さを消す慎重さは今予選では必須ではあるが。

 日本の選手は「サッカーは楽しい」と教えられて育っている。ハリルホジッチ監督がキャリアを積んだフランスのように、「生活のための闘争」の中から育ってきた選手たちとは自ずと考え方が違う。オーストラリア戦をみると、複雑な守備組織を短期間でこなしているから、その方面にも能力はあると思う。しかし、選手たちは心からそうしたいとは思っておらず、とりあえず指示に従っているだけの状態。サウジアラビア戦を落とせば、かなり求心力は低下してしまうだろう。予選突破にイエローランプが点滅し、求心力もないとなれば解任は秒読みに入る。逆に良い内容で勝利できれば、流れは一気に変わる可能性もある。

 ここからは1試合ごと、今まで以上の緊迫感が漂う。それが予選の醍醐味でもある。(西部謙司=スポーツライター)

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