藤井2冠誕生の裏で…注目を集めた「AI形勢指数」棋士側は複雑

[ 2020年12月23日 09:00 ]

激動2020 政治社会編(2)

記者会見で「二冠」と色紙に記す藤井2冠
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 2020年を語るうえで将棋の藤井聡太2冠(18)が成し遂げた快挙を外すわけにはいかない。東京五輪の開催予定時期だった7~8月、瞬く間に棋聖と王位を奪取。史上最年少で複数戴冠者となり、「五輪ロス」の日本列島を熱狂の渦に巻き込んだ。

 快進撃の間に注目を浴びたのがインターネット中継での「AI形勢指数」。1手ごとに勝率が百分率で表示される。7月14日の王位戦7番勝負第2局最終盤では勝率14%だった藤井が逆転で木村一基王位(47)=当時=を下し、奇跡的勝利としてトップニュースに。逆に10月5日の第70期王将戦挑戦者決定リーグでは豊島将之竜王(30)=叡王と2冠=を勝率で99%まで追い込みながら痛恨の逆転負けを喫し、こちらも話題になった。

 AI出現以前の将棋中継では、解説棋士のコメントが形勢判断の全てだった。しかしネット中継の先駆けとなった「ニコニコ生放送」がソフトの評価値表示を数年前から採用。ただし数値は絶対値で「400~500点差以内はほぼ互角」「1000点差は優勢」「2000点差以上は大差」といった独自基準にやや難解さが見られた。

 今年に入り、AbemaTVが百分率での表示を開始。囲碁・将棋チャンネルも同方式を採用している。

 ファンにとっては親切な情報表示でも、棋士側からは懐疑的な声が上がりつつある。前述の王位戦第2局について、王座経験のある中村太地七段(32)は「大逆転という報道もされたが、プロ的に見ると、ひとつのレールに乗ってしまえば、ああいう逆転もありうる」と自身のYouTubeで指摘。AIに詳しい羽生善治九段(50)も「形勢数値は(有利側に)楽観過ぎる。90%対10%でも、人間の目からすると6対4という時がある」と訴えた。その羽生は10月14日の王将戦挑決リーグで佐藤天彦九段相手に「1%対99%」から勝利をものにしているだけに、説得力は高い。

 将棋は生身の人間同士の戦い。AIだけでは評価できない。ただ形勢が数字で表示されれば、何十手も先を読む頭脳戦を観戦する目安になる。藤井も「見ていただく際の楽しみの一つにしていただければ」と話している。対局する棋士の心理は、解説担当の棋士が読み解いてくれる。投了後の感想戦では、棋士自ら言葉を発する。AIと人間の言葉。これらを総合して自分なりに楽しむのが、21年の「観戦新様式」になるかもしれない。

 《勝率・841も…》藤井2冠の今年は計63局で53勝10敗、・841と高勝率をマークした一方、棋聖、王位以外の5タイトル戦では番勝負に届かなかった。特に王将戦では挑戦者決定リーグで開幕3連敗を喫し、来期は2次予選からのスタートと、ほろ苦い結果。一般棋戦では3連覇を狙った朝日杯で準決勝敗退したものの、銀河戦では史上最年少で初優勝を飾っている。

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