【内田雅也の追球】理想論か、楽観論か。「夢と理想を語り続けてきた」矢野監督と「マイナス思考」の岡田氏

[ 2022年10月14日 08:00 ]

セCSファイナルステージ第2戦   阪神3―5ヤクルト ( 2022年10月13日    神宮 )

<ヤ・神>2回、梅野は左飛に倒れる(撮影・大森 寛明)
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 理想論と現実論というのがある。意味合いは異なるが、楽観論と悲観論とも言い換えることができるかもしれない。

 阪神監督・矢野燿大は理想主義者である。こうあってほしい、こうなれば最高……といった理想を常に描いている。選手に期待し、そして失敗してもとがめない。

 例題となるのは、回の先頭で7番が出塁した時の8番の作戦である。9番には投手で期待できない。よって、まず8番に強攻させる。好機が広がれば複数得点が狙える。凡退した場合は1死一塁から投手にバントさせ、2死二塁で1番に適時打を期待する戦法である。

 ところが、この作戦はよく失敗する。8番も打撃が弱く、最悪は併殺打もある。加えて投手のバントも失敗が目立つ。

 この夜、2回表の攻撃がまさに失敗例だった。先頭・糸原健斗が左前打。梅野隆太郎は強攻策で左翼後方への大飛球を放ったが山崎晃大朗の好捕にあった。続く藤浪晋太郎は送りバントを見逃し、ファウル、ファウルで三振に倒れたのだ。

 1番・中野拓夢は2死一塁で打席に立った。左前打したが一、二塁。遊ゴロ失で満塁と迫ったが近本光司三振で無得点に終わった。二塁に送っていれば、中野の安打が適時打になっていた。

 次期監督に内定している岡田彰布は8番に送らせる。強攻で「あわよくば」と考える楽観論を嫌う。また、梅野の一打を不運で片づけはしない。

 矢野もわかっている。金本知憲が監督2年目の2017年には作戦兼バッテリーコーチとなった矢野は前年までの8番強攻を改め、バントを推進していた。当時<「2死覚悟」のバント>と当欄で書いた。ただ、当時も「本当は打たせたい」と理想を語っていた。

 この夜は岡田がラジオの解説者で神宮球場にいた。もちろん誰も放送席を気にしながらプレーしたりはしていないだろう。ただ、現監督と次期監督が同じ場で交錯する複雑な状況だった。

 拙攻だった。先制点は奪ったが、早めの追加点がほしかった。2回表は焦点だった。得点していれば、不調と見えたサイスニードをKOできた。

 「夢と理想を語り続けてきた」という矢野と「マイナス思考」という岡田。好対照の両者が冷たい雨の敗戦を見つめていた。 =敬称略=(編集委員)

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2022年10月14日のニュース