愛工大名電の劇勝に見たイチロー氏から受け継いだ状況判断DNA

[ 2022年8月13日 04:08 ]

第104回全国高校野球選手権第7日・2回戦   愛工大名電6―5八戸学院光星 ( 2022年8月12日    甲子園 )

<愛工大名電・八戸学院光星>勝利をおさめた愛工大名電ナインがスタンドへ挨拶する(撮影・岸 良祐)
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 【秋村誠人の聖地誠論】どんな局面でも、何をすべきかを分かっていたら結果はおのずとついてくる。状況判断と思考の方向性。偉大な先輩・イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)から受け継ぐDNAが愛工大名電の劇勝の要因に思えた。

 5―5で迎えた延長10回無死二、三塁。打席の7番・美濃は、カウント1―1から八戸学院光星が伝令を出して守備タイムを取ると、打席を外して縦振りのスイングを繰り返した。この場面で相手が狙ってくるのは三振か内野フライだ。犠飛になる可能性がある高めの球は避けてくる。そんな考えもあって「低めを強く叩く」イメージが見える素振りだった。

 結果はそのイメージ通りだった。フルカウントから外寄りに来た130キロ直球を低く強い打球で中前へ。鮮やかなサヨナラ打だった。センター返しの打撃は「ずっと練習してきた」と言うが、的確な状況判断と明確な思考の成果だろう。イチロー氏から指導を受けた球児たちは、技術的なこと以上に「考え方を教わりました」という声が多かった。試合の局面で何をどう考えるか。それが生きたように思う。

 ゴルフスイングのようにも見える縦振りは、イチロー氏が現役時代にネクストバッターズサークルで行っていたルーティンでもある。フォームも含め、多くのことを参考にしている美濃はこうも言った。「10回は(一塁が空いていたので)申告敬遠かなと思ったけど、勝負してくれてうれしい気持ちが強い」。思考を巡らし、集中し、そして打った。思えば、09年WBCの韓国との決勝。延長10回に劇的な決勝打を放って侍ジャパンを世界一連覇へ導いたイチロー氏は、その場面を「自分で実況をしながら打席に入っていった」と振り返っている。今がどんな状況かを整理し、確認し、集中した。重大な局面での心境は美濃も同じだったのかもしれない。

 「考える労力を惜しむと前に進むことを止めてしまう」。これはイチロー氏の名言だ。考えることで前に進む。愛工大名電の進撃は止まらない。(専門委員)

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2022年8月13日のニュース