【内田雅也の追球】佐藤輝も糸原も…過度の責任感から猛虎たちを解放しなくてはならない

[ 2022年8月13日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―4中日 ( 2022年8月12日    京セラD )

<神・中>試合後に整列し、一礼する佐藤輝(左)ら(撮影・坂田 高浩)
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 敗戦後、ベンチ前に整列した阪神ナインは京セラドームのスタンドに向け、脱帽、一礼した。勝っても負けても行う応援御礼のあいさつだが、列の前に出ていたのは佐藤輝明だった。

 本来はキャプテン坂本誠志郎の役目で、7月15日にコロナ陽性で離脱後は近本光司らが代役を務めた。坂本は5日に復帰しているが、佐藤輝が前に出た。7月31日のヤクルト戦でも見た光景だ。

 田淵幸一が「打てば大統領、打てなければA級戦犯」という阪神4番の重責である。掛布雅之、金本知憲らも味わった。

 この夜は中日・大野雄大に4安打完封された。今季20度目の零敗。佐藤輝は無安打1四球。最後の打者となっていた。

 大山悠輔、中野拓夢、近本……と主力打者に離脱者が相次ぎ、責任感が募る23歳の心情を思いやる。だが、敗因の比率は貧打の打線よりも、実は守備面の方が大きい。もう35年ほど、阪神を取材している身として学んだのは、連敗は守備の破たんから生まれる。脱出にはまず守ることだ。

 この夜は1回表、糸原健斗がおかした適時失策が痛かった。失った2点目が重くのしかかった。

 糸原はその後、回の先頭で2安打、四球も選んだが、試合展開上、取り返せたとは言えないだろう。連敗中はそれほど守備のミスは大きい。

 この4連敗中7失策。失点は計14点だが、自責点は8点。失策絡みの非自責点が6点もある。

 ここ7試合で11失策という現状は、チーム内で“ミスしてはいけない”というおそれから連鎖反応が起きているようだ。

 強い心の持ち主と映る糸原も動きが堅かった。1回表は速いゴロをグラブの土手に当てた。3回表に連続したゴロ(併殺狙い)への対応も大事さが勝っていた。

 「守備にスランプはない」という言葉に遊撃手で名手と言われたカル・リプケン(オリオールズ)が反論している。打撃同様に「なんだかしっくりこないときがある」と語っている。ジョージ・F・ウィル『野球術』(文春文庫)にある。「前傾姿勢を早くとりすぎるというのかな……投球の前から前傾姿勢に入ってしまって、修正がきかなくなるんです」。まさに、この夜の糸原だ。

 佐藤輝も糸原も……猛虎たちを解放しなくてはならない。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月13日のニュース