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【内田雅也の追球】内角打ちの「人格的ヒット」 佐藤輝の執念、北條の魂が“押し込んだ”ポテン打

[ 2022年7月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―2広島 ( 2022年7月6日    甲子園 )

<神・広>4回2死一塁、佐藤輝はバットを折られながら、右前打を放つ(撮影・坂田 高浩)
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 阪神の3点は2死無走者から4本の単打を集めたものだった。この夜の安打は他にバント安打だけで、まさにワンチャンスをものにした。

 今季過去3戦3敗、23回で3点しか奪えていなかった苦手左腕、床田寛樹に黒星をつけ、今季12試合目で初めて広島から白星をあげた。弾みにしたい勝利である。

 逆転した4回裏、光ったのは内角球を詰まりながら運んだ打撃である。

 2死一塁。佐藤輝明は内角高め速球にバットを折られながら右前に落ちる安打とした。四球で2死満塁。北條史也は追い込まれ、内角高め速球に詰まりながら左前に落ちる2点打で同点とした。

 内角の速い球は詰まるのを恐れていては打てない。田淵幸一(本紙評論家)が阪神の若手時代に指導を仰いだ山内一弘はかつて「内角(シュート)打ちの名人」と呼ばれた右打者だった。著書『タテジマ』(世界文化社)に独特の指導法がある。「なあ、田淵、インコースはなあ、腰を回しながら右手で押すんや」

 「押す」である。<こんな表現は初めて聞いた>。ファウルにならぬよう腰を開かず、右手(左打者なら左手)で押し込むわけか。佐藤輝、北條は「押す」ができていたため、ポテン打となったと言える。

 こうしたポテン打を明治・大正期、日本球界をリードした旧制一高では「人格的ヒット」と呼んだ。部員だった君島一郎の『日本野球創世記』(ベースボール・マガジン社)にある。後にプロ野球コミッショナーも務めた内村祐之が回想している。<いくら練習しても、うまくならない選手が大事なゲームの大事な場面でヒットを打った時などに、この言葉を使った。精神的執念の結果としか考えられない>。

 <うまくならない>は別として、努力の結晶だとみたい。佐藤輝はしつこく攻められる内角高め速球を打ち返そうと懸命だった。北條を6番に抜てきした監督・矢野燿大が試合後「打たなくても納得させてもらえる野球に対する姿勢がある」と話した。ベンチで声を出して鼓舞し、時に笑いを呼ぶ。野村克也が言う「ヤジ将軍は貴重な戦力」だ。お立ち台で西勇輝も普段の姿勢をたたえた。

 「押す」という技術に、心もこもっていたわけである。=敬称略=(編集委員)

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