【内田雅也の追球】掉尾と愛の25日間――崖っぷちからの進撃を終えた阪神

[ 2019年10月14日 08:00 ]

セ・CSファイナルS第4戦   阪神1―4巨人 ( 2019年10月13日    東京D )

<CSファイナル 巨・神4>6回2死三塁、丸に勝ち越しセーフティーバントを決められ意気消沈の西(右)。左は梅野(撮影・木村 揚輔)
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 敗戦後、薄暗い東京ドームの通路を抜けて外に出ると、星空が広がっていた。台風が過ぎ去った後の東京の空は洗われたように美しかった。あの星々たちは敗者となった阪神の夢か、または希望か。

 レギュラーシーズン終盤、早ければ9月18日の時点で3位の可能性が消えてしまう可能性があった。崖っぷちに立ってからこの日まで25日間の戦いは称賛に値する。

 奇跡とまで言われた進撃である。ファンは日本一の夢を見ることができた。チームは選手たちの可能性を信じることができた。希望が湧いた日々ではなかったろうか。

 シーズン終盤、藤川球児がよく口にした言葉に「フィニッシュ・ストロング」がある。大リーグ時代に聞いた言葉だという。「始まりではなく、終わりを意識しないといけない。力強くゴールしよう」という意味である。日本語に似た言葉がある。「掉尾(ちょうび)を飾る」だ。近年、シーズン終盤の失速で失望感を与えていた阪神が汚名を返上できたのだ。

 今年最後となった試合も敢闘した。1回表2死から福留孝介が二盗を決めた。モーションを盗み、捕手が二塁送球をあきらめるほど悠々セーフだった。阪神は今季、巨人・高橋優貴から盗塁を6度試み、すべて成功させていた。他球団は憤死も多く、成功率10割は阪神だけだった。恐らく、癖か何か分かっていたのだろう。さすがだと言えるだろう。

 ただし、この優勢が意外な展開を見せる。4回表無死一塁で大山悠輔、5回表2死一塁で近本光司が相次いで盗塁に失敗した。流れを失ったのである。試合中、相手が対応、修正してきたのかもしれない。虚実の駆け引きが垣間見える。

 シュートを巡る攻防でも明暗が分かれた。1―1同点の6回表無死一、二塁の好機。救援した大竹寛得意のシュートにやられた。マルテ三ゴロ。大山と梅野隆太郎は空振りとファウルで最後はスライダーに空振り三振した。その裏先頭、西勇輝持ち味のシュートは山本泰寛に左翼線二塁打された。

 決勝点はこの回2死三塁となってから、丸佳浩が初球に転がした投手左へのセーフティバントだった。あわてた西の一塁送球が乱れ、内野安打となったのだ。

 思い出したのは1985(昭和60)年7月6日の広島戦(甲子園)である。同点の8回表2死三塁で衣笠祥雄に三塁前セーフティーバントで決勝点を奪われた。試合巧者の広島らしさは遺伝子として丸にも引き継がれていたのかもしれない。まさかの奇策に脱帽し、相手をたたえるしかない。

 季節外れの暑さに嘆いていたのはずが、いつの間にか季節は秋に移っていた。

 以前も書いた。「野球では勝てば栄誉が、敗れれば、チーム愛が残る」と言われる。秋は深まり、そして、愛も深まっていた。=敬称略=(編集委員)

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