【内田雅也の追球】運やツキを逃さぬ姿勢――やるべきことは全うした阪神

[ 2019年10月10日 08:00 ]

セ・CSファイナルS第1戦   阪神2―5巨人 ( 2019年10月9日    東京D )

<CSファイナルS巨・神1>4回2死二、三塁、高山は四球を選ぶ(撮影・坂田 高浩)
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 5回表先頭、四球で出た阪神・梅野隆太郎は一塁で大きいリードをとった。左足は土を踏んでいるが、右足は大きく人工芝にはみ出していた。

 1―5と4点のビハインド。走る場面ではない。それでもマウンドの巨人・山口俊は打者の代打・鳥谷敬への初球を投げる前、一塁にけん制球を放った。大きなリードが気になったのだろう。

 これが今季の阪神である。たとえ点差が開いていようと、やるべきことはやる。

 阪神は今季、こうした真摯(しんし)な姿勢をどんな試合でも貫いてきた。それがシーズン最終盤にきての連勝、そしてクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ突破の力になったと信じている。

 たとえば、糸原健斗、高山俊である。4回表、山口に対し、ともにフルカウントからボール球を見極め、連続四球を選んだ。一発同点の満塁機を作った。9回表にはデラロサから初球、そして第1ストライクを快打して連続安打した。一発逆転の満塁機を呼んだ。「好球必打」という、あるべき姿勢を示した。だから、最後まで巨人を追い詰められたのだ。

 ファイナルステージの初戦。苦しい投手事情から先発に抜てきした若い望月惇志が2回まで5点を失った。0―5。完敗となるかもしれない序盤だった。

 レギュラーシーズンでの巨人との初対戦(4月2日・東京ドーム)を思い返した。あの試合も4回で0―7と大量リードを許した。最後は3―9というの惨敗だった。それでも試合終盤、北條史也、糸井嘉男、糸原がフルカウントからボール球を見極め四球を奪っている。大差試合にありがちな強引さはなかった。

 当時、当欄で書いた。アサヒビール社長、日本放送協会(NHK)会長などを務めた福地茂雄が語っている。月刊『致知』(致知出版社)2011年3月号にあった。「自分の持ち場で、自分のやるべきことを、やるべき時に、キッチリとやっていたら運は逃げません。それをやらないから運やツキが逃げるんです」

 この日10月9日は詩人・随筆家、薄田泣菫の命日だった。1945(昭和20)年、68歳で没している。「人間は何のために生きているのか?」という問いに対して、簡潔に「なすべきことをなすため」だと答えている。

 短期決戦とはいえ、最長6連戦で長丁場の感覚もある。やるべきことはやる。この姿勢を貫く限り、運やツキは逃げはしない。大切にしたい勢いが衰えることもないだろう。=敬称略=(編集委員)

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2019年10月10日のニュース