一流選手に見た「ネガティブ」思考 今季で引退、田中賢介の場合は…

[ 2019年9月16日 09:30 ]

日本ハムの田中賢(撮影・高橋茂夫)
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 昔、先輩記者から聞いた印象的な話がある。打撃の天才・落合博満氏に関するエピソードだ。4打数3安打と活躍した試合後、報道陣からヒットを打った打席の質問には歩きながら素っ気ない言葉を繰り返していた同氏が、凡退した打席の質問を受けると足を止めて熱弁を振るったという。重要視するのは「打てた」ことよりも「打てなかった」こと。さすが打撃の「求道者」だと思った。

 勝手ながら記者が落合氏のイメージを重ねる現役選手が西武の中村剛也内野手(36)だ。今季はプロ通算400本塁打も達成した和製大砲。ただ、試合中に球団広報から配信されるコメントは大半が「打ててよかった」だけ。その理由を問うと「テレビでホームランのコメントが紹介されるのは、ほとんどが次の打席に入っている時。その打席は簡単に凡退するかもしれない。だから申し訳ないけど、喜びのコメントはできない」と返ってきた。ネガティブに聞こえる言葉の中にも、プライドがにじむ。

 現在、記者は日本ハム担当。今季限りで現役を引退する田中賢介内野手(38)を取材する機会が多い。パ・リーグの各球場の思い出を語ってもらう企画を行っているが「ほっと神戸の一番の思い出」を聞いた際に返ってきた答えが印象的だった。「プロ2年目で僕がエラーもして、チームもサヨナラ負けした試合が一番、記憶に残ってます」。レギュラー定着の5年も前の01年4月30日のオリックス戦に「9番・三塁」で出場。失策を犯すなど貢献できず、自身がベンチに退いた延長10回にチームはサヨナラ負けを喫した。当時19歳だった少年は悔しさを糧に日米通算1500安打を達成する選手にまで成長。田中賢は「良かった事はすぐに忘れるタイプなので、悪い思い出が多いですね」と笑う。

 どんな時代、どんな業界でも、どこか「ネガティブ」な思考を持って努力を重ねられる人間が「一流」の称号を得られるのだと思う。(記者コラム・山田忠範)

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