【内田雅也の追球】外国人の「大和魂」――バッキー悲報の日にV消滅の阪神

[ 2019年9月16日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―6巨人 ( 2019年9月15日    東京D )

<巨・神>真っ向勝負で巨人打線に挑んだ阪神5番手のジョンソン(撮影・北條 貴史)
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 映画監督・小津安二郎の遺作となった『秋刀魚(さんま)の味』(1962年11月公開)に阪神に入団したばかりのジーン・バッキーが登場している。

 夏。冒頭、主人公の笠智衆が勤める会社に「大洋対阪神戦を見に来たついでに寄ってみた」と高校時代の同級生が訪ねてくる。会社は当時大洋(現DeNA)が本拠地としていた川崎球場の近くにあるようだ。旧友は「今日がヤマ場なんだよ」と言う。実際、この62年、阪神は大洋と優勝争いを演じていた。

 同窓会の打ち合わせのため、旧友は試合は観に行かず、笠らと東京・西銀座の小料理店「若松」で一杯やる。店のテレビにナイター中継が映る。阪神バッテリーはバッキーと谷川勉だ。

 実際の試合に照らし合わせると、62年8月15日の大洋―阪神戦(川崎)だと分かる。7月にテスト入団したバッキーは8月9日、国鉄(現ヤクルト)戦(東京)で初登板。この夜は3度目登板で初先発だった。7回、100球を投げ、4安打2失点と好投したが、援護に恵まれず降板。勝敗はつかなかった。試合は9回表、三宅秀史が逆転3ランを放ち、最後はエース・村山実まで投入し、4―2で勝っている。

 さて、未明にバッキーの訃報が流れて臨んだ巨人戦だった。バッキーは「打倒巨人」の猛虎魂を持った投手だった。ノーヒットノーランも、王貞治へのビーンボールからの乱闘事件も巨人戦である。当時監督の藤本定義は「大和魂を持っている」とたたえた。

 外国人は大和魂を好む。ルー・ゲーリッグ(ヤンキース)はまだプロ野球のない31年に来日。「日本に大和魂があると聞き、楽しみにして来た。だが残念ながら大和魂はどこにもなかった。凡打だと笑いながら一塁に走ってくる選手がいた。わたしはぶん殴ってやりたかった。大和魂のために」と語っている=波多野勝『日米野球史――メジャーを追いかけた70年』(PHP新書)=。

 この日は外国人選手の大和魂が見えた試合だった。ジェフリー・マルテは果敢に頭から二塁に突っ込んだ。ピアース・ジョンソンは真っ向勝負を挑み、逆転決勝弾を放ったアレックス・ゲレーロは涙を浮かべた。

 阪神はこの敗戦で優勝への望みが完全に断たれた。クライマックスシリーズ(CS)進出も危うい。それでも、まだやれる。大和魂を見せることはできる。=敬称略=(編集委員)

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