【内田雅也の追球】恩情0・2秒の意味 ミス減らし自信を植えつける「ゆっくり急げ」

[ 2022年11月9日 08:00 ]

併殺の練習にのぞむ熊谷(撮影・大森 寛明)
Photo By スポニチ

 併殺プレーの練習で阪神ヘッドコーチ・平田勝男はストップウオッチを手にタイムを計っている。1死一塁の想定だ。

 そして「岡林!」と中日の俊足の打者走者を想定してノッカーの内野守備走塁コーチ・藤本敦士が投ゴロを転がした。

 「3秒78!」と平田が叫んでいる。あれ?

 次いで「羽月」(広島)では「3秒68! これなら十分アウトや」。あれあれ?

 さらに「小園」(広島)は「3秒60! おい60が出たぞ」。あれあれあれ?

 どうもおかしい。手もとのストップウオッチで計っていたのだが、平田は毎度0・2秒ほど速いタイムを叫んでいる。手もと計測は順に3秒98、3秒82、3秒80だった。

 平田は実測タイムから0・2秒を引いているのだ。この“サービス”の意味を考えた。スピード競争のようにタイムにとらわれて正確性・堅実さを後回しにするとミスが出るからではないか。直に聞いてみた。

 平田は「え、よく気づいたなあ。その通りよ」と認めた。秋季キャンプ第2クール初日(5日)に併殺のタイム計測をやった。「ミスがよく出たのよ。スピードばかり追いかけてね。二塁上のピボットでもリプレー検証されたらセーフになるような踏み方をしていた。そんなにあわてなくても大丈夫だということを伝えたかった。正確に、そして速く。シュア・アンド・スピードよ」

 3秒台が目標だが「左の俊足でも3秒8」と、多くの打者の一塁駆け抜けは4秒以上かかる。「コリジョン(衝突防止)ルールで走者が向かってくる危険なスライディングもない。しっかり踏んで、強い球を転送すれば大丈夫。それを選手たちに体で覚えてほしい」

 いわゆる「ゆっくり急げ」である。恩情の0・2秒にはミスを減らし、選手たちに自信を植えつける意図があった。

 この日は二塁に熊谷敬宥と渡辺諒、遊撃に木浪聖也と小幡竜平が入っていた。他に高寺望夢や今は安芸にいない糸原健斗、山本泰寛、中野拓夢ら二遊間は激戦区だ。

 今季の併殺数117はリーグ3番目だが、最多のヤクルト143とは差がある。併殺崩れの後、手痛い失点を喫するケースもよくある。コンマ何秒を争う厳しい世界で、禁物のような恩情が成長を呼ぶかもしれない。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2022年11月9日のニュース