【内田雅也の追球】勝敗背負う4番への階段 佐藤輝は苦手のインハイを捨てないで打ち砕きにいった

[ 2022年7月13日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-4巨人 ( 2022年7月12日    甲子園 )

<神・巨>3回2死一、二塁、佐藤輝は三飛に倒れる(撮影・坂田 高浩)
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 阪神・佐藤輝明は初球、インハイ148キロ速球を打ちにでて三飛を打ち上げた。バットを振り下ろすしぐさに悔しさがみてとれた。0―3だった3回裏2死一、二塁。一発出れば同点、適時打でも流れを引き寄せられる好機だった。

 2回裏先頭でも1ボールからインハイ145キロ速球に三邪飛だった。やられたインハイを次の打席で狙ったようだが、いずれも差し込まれた。

 佐藤輝にとって、インハイは大きなテーマである。ルーキーの昨年から再三再四、インハイを攻められ、苦しんだ。

 ジャパンベースボールデータ(JBD)の統計サイト『翼』によると、今季、内角高め(ストライク)は6打数1安打、打率・167=成績は11日現在=。「結果球」が6度しかない理由はファウルが多いこと。またインハイ速球の後に低め変化球で打ち取られる傾向もあるだろう。

 昨年はこの内角高めが10打数2安打。ただ、同じく内角高めのボール球が6打数無安打で、合わせると16打数2安打、打率・125だった。

 それでも昨年は1本、今年も1本、インハイ速球を本塁打している。苦手だからと捨てるのではなく、打ち砕きにいく。その意気は買いたい。

 ホームランバッターにとって、インハイ攻めはある意味、宿命である。昭和の時代、伝統の一戦で繰り広げられた掛布雅之と江川卓の対決もインハイ速球を巡る勝負だった。『巨人―阪神論』(角川書店)で両者が対談している。江川は掛布の弱点と、インハイ速球で攻め続けた。掛布も「インハイのストレートを打てるか、打ち取られるか」と、やるか、やられるかの真っ向勝負だった。

 掛布は攻略法としてスイングを小さくした。剣道にたとえ「め~ん」ではなく「小手」でないと間に合わない。江川は「速さに負けまいとするから(スイングが)大きくなる。それが空振りする要因」と話している。

 令和の伝統の一戦。スケールはともあれ、いま巨人勝ち頭の戸郷翔征と阪神4番の対決だった。3、4打席目はもうインハイ速球は来なかった。

 先発野手全員安打で零敗を喫した阪神で、佐藤輝が最も悔しい思いをしているのではないか。勝敗を背負える4番への階段である。=敬称略=(編集委員)

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2022年7月13日のニュース