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【コラム】西部謙司

スタジアムはどこへ向かうのか

[ 2014年3月27日 05:30 ]

イレブンと優勝を喜び合うバイエルンMのグアルディオラ監督(左)
Photo By AP

 浦和レッズの無観客試合が話題になっていたころ、UEFAチャンピオンズリーグではバイエルン・ミュンヘンのファンが性差別的な横断幕を掲示した。バイエルンへの処分は客席の一部閉鎖と罰金1万ユーロ(約140万円)だった。

 浦和ファンが「JAPANESE ONLY」のバナーを掲示したのは客席への出入り口。バイエルンのほうは客席に「GAY GUNNERS」である(ガナーズはアーセナルの愛称、アーセナルが対戦相手だった) 。Jリーグの基準でバイエルンに罰を科すとしたら、無観客試合以上になるはずだ。つまり勝ち点剥奪になるが、それが3ポイントより多ければバイエルンは次のラウンドに進めずに敗退だった。

 Jリーグが厳しすぎるのか、それともUFFAが緩すぎるのか。

 ヨーロッパのスタジアムには、もともと「毒」があった。レイシズムは中でも猛毒で、すでに看過できない状況にきていた。黒人選手へのモンキーチャントなどは、かつては罰金の対象にすらならなかったが、現在は厳しく処分されるようになっている。ただ、過去の経緯もそれなりに踏まえながらの処分なので、罰則強化といってもそれなりの落としどころになっているのだろう。

 UEFAに比べれば、Jリーグの処分はバランスを欠いて いるかもしれない。しかし、日本とヨーロッパではスタジアムの事情が異なる。日本のスタジアムは安全で誰もが安心して観戦できる、ヨーロッパの人々から見れば「うらやましい」環境だった。罵詈雑言、暴力、差別といったサッカーのスタジアムにつきものの「毒素」がほとんどない。逆に、これまで無菌状態だったからこそ、Jリーグは初のレイシズム・ケースに対して強い反応を示したのかもしれない。過去の事例を踏まえてバランスをとるよりも、自らの聖域を守ろうとしているようにみえる。そもそも過去に事例がないので今回の処分が基準になるわけだ。毒を徹底的に排除しようという気迫がうかがえる。

 少し気になるのは、Jリーグがいきなりハードルを上げてしまったことだ。各クラブは、差別的表現や政治的メッセージなど、厳罰対象となるバナーに目を光らせることになるだろう。だが、スタジアムはある程度の「毒」を含む場所なのだ。すべて殺菌消毒してしまえば、それはそれで気味の悪いスタジアムになりかねない。キツめのジョークや辛辣なヤジもあるのがスタジアムで、要は程度の問題だ。(西部謙司=スポーツライター)

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