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【コラム】西部謙司

浦和レッズの“広島化”

[ 2012年12月19日 06:00 ]

浦和移籍が決まったDF森脇良太
Photo By スポニチ

 J1チャンピオンのサンフレッチェ広島から、DF森脇良太が浦和レッズへ移籍した。広島から浦和への移籍は柏木陽介、槙野智章に次ぐ3人目だ。

 優勝チームから3位への移籍は不思議に思われるかもしれないが、クラブの予算規模は浦和のほうがずっと大きく給料も上がるので、下位チームへの移籍といっても選手にとってはキャリアアップといえる。

 浦和は独特のスタイルでプレーしている。オリジナルはミハイロ・ペトロビッチ監督が広島で築き上げたものだ。ペトロビッチ監督が浦和へ移ったことで、浦和も広島と同じスタイルになった。独特のスタイルに合った選手を補強するとなると、広島から引き抜くのが最も手堅い。広島ユース→広島→浦和のルートができれば、浦和にとっては育成組織が2つあるようなものだろう。

 かつてバルセロナでもアヤックス化があった。アヤックスの黄金時代を築いたルイス・ファンハール監督がバルセロナに移り、それを機に元アヤックスやオランダ人選手が急激に増えていった。70年代からアヤックスは異色のチームだった。“トータルフットボール”と呼ばれた独特のスタイルと優れた育成組織を持っていた。

 バルサはもともとアヤックスとは兄弟のようなクラブで、アヤックスからリヌス・ミケルスやヨハン・クライフを監督に 迎え、アヤックス流のプレースタイルを導入していた経緯がある。バルサにとって、アヤックスの選手は補強対象としてうってつけだった。

 バルサがアヤックス化を始めた時点では、アヤックスのほうが少し格上のチームだった。ただ、広島と浦和のように財政規模ではバルサのほうがずっと大きい。オランダ人で固めたバルサはリーグ連覇を成し遂げたが、あまりにオランダ色が強くなったことでファンの不興を買い、優勝を逃すと同時にファンハールは更迭された。現在、バルサは自前の育成組織で育てた選手でトップチームを構成できるようになっている。

 広島→浦和とは違うタイプだが、ガンバ大阪も他クラブで活躍した外国人FWを補強する方針で成功を収めていた。これも手堅い補強プランだ った。すでに他クラブで活躍しているので獲得資金は必要になるが、未知の外国人をとるよりもリスクは小さい。中東のクラブへ移籍させてしまえば元は十分とれる。

 浦和やG大阪のやり方は、他のクラブが育ててきた宝を横取りするような印象も与えてしまうかもしれないが、お金のあるクラブが人材を吸収していくのはサッカー界の習慣としては自然である。引き抜く側、引き抜かれる側ともに、確かな成長戦略があるかどうかが問われる。(西部謙司=スポーツライター)

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