羽生九段 長考の長考返し カド番で慎重姿勢 2歩損取り返せるか

[ 2023年3月12日 05:14 ]

第72期ALSOK杯王将戦第6局第1日 ( 2023年3月11日    佐賀県上峰町「大幸園」 )

熟考する羽生九段
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 タイトル通算100期到達には連勝しかない先手の羽生善治九段(52)はシリーズ初の「角換わり早繰り銀」を採用。複雑な中盤の入り口では藤井の長考に長考を返す慎重な手順に終始し、59手目を封じた。駒割りは羽生の2歩損。正念場の第2日、激戦の予感が漂ってきた。

 じわじわと圧をかけられている、というのが実直な印象なのだろう。「駒と駒がぶつかった後は一転して渋い展開。かといって、ゆっくりはしていられない状態ですか」。封じ手を提出して宿に戻る直前の羽生は、やや小難しい面持ちだった。シリーズ2戦2勝と相性のいい先手番ながら、思ったほどのリードは奪えない。負ければ終わりのプレッシャーが徐々に重くのしかかる。

 右銀を3筋から前線に繰り出す「早繰り銀」に藤井も追随した。前例の多い戦型で羽生が選んだのは昨年11月28日に永瀬拓矢王座(30)と対戦した叡王戦の段位別予選。自身が後手番で、先手の進めた手をほぼ踏襲している。典型的なのは41手目の▲6八飛(第2図)だ。ちなみに勝ったのは永瀬。つまり自らの敗局を「逆張り」して採用したことになる。

 「途中までは去年の公式戦と同じ展開ですね。(午前中に)手を変えられてしまいましたが」

 居飛車が基本の角換わりなのに、飛車を積極的に活用するアグレッシブな構想。引き出しが星の数ほどある百戦錬磨の羽生にとっての誤算は、藤井の柔軟性豊かな対応だろう。バランスを保っていた中盤から難解なねじり合いを強いられる。44手目に藤井が1時間12分を費やせば、応手▲6六銀に1時間9分を投入。53分を使った藤井の56手目に対しては、みっちりと59分の熟考を経て3九王とした。俗に言う「長考の長考返し」。一手の緩みが致命傷だ。読みに読みを入れ、さらに読みを深める。絶対王者と化した藤井相手に、うかつな対応は許されない。

 立会人の深浦九段は羽生の苦悩を共有したかのように「後手が2歩得してますから」と藤井持ちを示した。このまま押し切られるわけにはいかない。「あす(第2日)は朝から激しくなると思います」と羽生。覚悟を決めたオーラを漂わせ、迎えのワゴンに乗り込んだ。(我満 晴朗)

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