谷川17世名人「みんなで寄ってたかって藤井王将を強くしている」難題をクリアするたび進化

[ 2023年3月12日 16:03 ]

<第72期王将戦第6局・2日目>熟考する藤井王将
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦7番勝負(スポーツニッポン新聞社ほか主催)第6局は、11、12の両日、佐賀県上峰町の「大幸園」で指され、藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=が羽生善治九段(52)に88手で勝利し、通算4勝2敗でタイトルを防衛した。

 第2局で立会人を務め、本紙「谷川EYE」で解説や展望を担当した谷川浩司17世名人(60)は「みんなで課題を与え、寄ってたかって藤井王将を強くしている」と苦笑した。第1局から羽生の戦型選択を受け入れ、一手損角換わり、相掛かり、雁木(がんぎ)、角換わり腰掛け銀、横歩取り、角換わり早繰り銀と進んだ7番勝負。相手の工夫が待ち構える局面へ飛び込み、打開策を戦前の研究、もしくは対局中に繰り出せたからこその王将初防衛であり、20年棋聖戦以降12度の全タイトル戦敗退なしの偉業だった。

 戦型選択を相手に委ねるスタイルは16年10月の四段昇段以降、一貫する。師匠の杉本昌隆八段(53)は同年12月のプロデビュー戦、加藤一二三・九段戦から「(加藤得意の)棒銀を避けようとしなかった」。確かに開始から11時間近くが経過した投了後、「教わろうという気持ちが強かった」と学生服姿の当時14歳も振り返っていた。

 「気持ちで逃げてしまうと、その次も逃げてしまう」とは杉本。注目度の高い藤井戦に備え、練り上げた上で投じてくる最強手を打ち返すと共に、学びも両立させた6年あまりと理解できる。

 「羽生九段も若い頃からそうだった。相振り飛車も指す羽生九段の方が藤井に比べると(戦型選択は)幅広いが、相手の得意から逃げないのは一緒」とも杉本は語った。杉本は羽生の2歳年上で同世代。裏付けになると思われるのが、藤井の勉強法だ。

 直近の対戦相手の将棋を調べるより、関心ある戦型や課題局面での対応を消化していく。藤井自身、「定跡を研究するのは勝つためというより趣味に近い。対局に向けて準備するより、普段から定跡を作っておいて…という感じです」と語っている。見解の分かれる、課題局面ごとの内なる最善手をしらみつぶしにストックするイメージだろうか。関心の対象は人より競技そのものへ向き、学校でのテスト直前、出題範囲を一夜漬けするよりも、日頃から気の向くままに進める勉強法に近いかもしれない。卒業時の理解度がどちらが高いかは「興味」という追い風がある分、自明だ。

 谷川は序中盤の向上を、時間消費の改善に見る。以前なら序中盤で未知の局面に出くわすと長考に沈んだが、今期はその場面が皆無に近かった。敗れた第4局、2時間24分考えて敗着を指した66手目くらいか。

 「勝ちたいより強くなりたい、“将棋の真理を追究したい”を貫いてる。私の経験では強くなればなるほど将棋の大きさ、底の深さが分かって、やはり何も分かってないと分かるところはありました」。王道が、王道を破った。史上最年少5冠が永世7冠を返り討ちにしたタイトル戦初対決は、そう記憶されるべき7番勝負になった。(筒崎 嘉一)

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