映画「望み」 核心を表現した岡田健史の確かな存在感

[ 2020年10月15日 14:00 ]

映画「望み」で、失跡する高校生を演じる岡田健史(C)2020「望み」製作委員会
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 【牧 元一の孤人焦点】公開中の映画「望み」(監督堤幸彦)を見た。ミステリーとして楽しめ、家族の物語として考えさせられる作品だ。

 ベストセラー小説「犯人に告ぐ」などで知られる作家・雫井脩介氏の小説が原作。建築デザイン業を営む男性の家族の日常が息子の失跡で崩れてゆく。

 家族を演じたのは、堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶の4人。物語の中でそれぞれの熱演が光るが、中でも、失跡する息子・規士役の岡田の芝居に興味を抱いた。

 岡田は現在、21歳。一昨年、TBS系の連続ドラマ「中学聖日記」で主人公の教師(有村架純)に恋する中学生を演じてデビュー。今後は、来年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」に、主人公・渋沢栄一(吉沢亮)のいとこ・尾高平九郎役で大河初出演することが決まっている。

 映画「望み」で演じた高校生の規士は、けがでサッカーを断念。表情が暗く無口で、ある日、家を出たまま帰らなくなる。やがて、周囲で殺人事件が発生。失跡が続く中、犯人もしくは被害者である可能性が色濃くなる。

 岡田の出番は堤や石田に比べて多くない。物語の始めの方で失跡してしまうからだ。しかし、物語自体は、岡田が演じた規士という存在が軸になっている。規士は果たして加害者なのか被害者なのか、生きているのか死んでしまったのか、なぜ事件は起きたのか、ふだんはどのような思いを抱いていたのか。それがこの物語の核心だ。

 岡田は短い時間の演技で核心人物を表現しなければならなかった。しかも規士は無口、つまりセリフが少ないから、言葉ではなく表情やたたずまいの緻密な芝居が求められた。

 規士が底の浅そうな人物に見えれば、物語は力を失っただろう。最後まで強い関心を持って映画を見続けられるのは、岡田の芝居の成功、そして、岡田の存在感の確かさによるところが大きい。

 本人に、演技で心掛けた点を尋ねた。「父親にとっての規士、母親にとっての規士、妹にとっての規士、世間から見た規士、周りの役から見た『規士』を体現することを1番に心掛けました」と岡田は答えた。

 苦労した点はどこか。「サッカーのシーンが1番大変でした。僕自身、サッカーと水泳が特に苦手なもので」。プロフィルの特技の欄に「野球」と記している俳優だから、運動神経は悪くないはず。サッカーのシーンも巧みに動いているように見えたので、意外な答えだった。

 堤監督は雑誌の取材に、この映画の岡田について「目力が凄い。黙っていても伝わってくる。大物の予感」と絶賛している。岡田は「大変恐縮です。またいつの日かご一緒できると信じています。その日まで精進して参るのみです。堤監督、ありがとうございます」と感謝した。

 岡田は今後、その存在感をどこまで強めるのか。次作への期待が高まる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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