好意的な声が多い新ルールだけど…ピッチクロックがないからこそ生まれた「大谷の24秒」

[ 2023年4月9日 07:30 ]

9回、トラウトを空振り三振に仕留めて優勝を決め、ガッツポーズの大谷。捕手中村悠平
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 「24」。緊迫した演出で人気を集めた、キーファー・サザーランド主演の米ドラマではない。「大谷の24秒」。3月21日、WBC決勝でリリーフ登板した侍ジャパンの大谷翔平が、最後の1球を投げた際の投球間隔だ。

 1点リードの9回2死で、打席にはエンゼルスの同僚で米国代表のキャプテン・トラウト。そして、フルカウントからの6球目――。仮に15秒(走者なし)のピッチクロックがあれば、球審は違反を宣告して「ボール」となりトラウトは四球だ。なんとも興ざめ。この場面なら、たっぷり時間をかけても誰も文句は言わない。世界中の野球ファンは時間が経つのも忘れ、息をのんで結末を見守る。そして、奇跡のようなエンディングが訪れた。

 長く記者として取材活動をしているが、ファンのことを考えてもやはり試合時間は短い方が好ましい。サッカーなど時間が決まっている他のスポーツや映画、コンサートなど他のエンタメと比べても、3時間オーバーはいささか長い。見ている方も集中力が続かないはずだ。今季から大リーグが導入したピッチクロック。開幕から試合時間は大幅に短縮され、好意的に受け取られている。

 ただ、試合の映像を見ていると投手も打者も審判も、時間ばかりを気にして、時間に支配されてしまっているようにも見える。バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーと合わせた米4大スポーツで、最初から試合時間が決まっていないのは大リーグだけ。牧歌的といおうか。それが「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」と言われるゆえんだと思う。

 日々締め切りが待っている記者だけではなく、毎日の生活で時間に追いかけ回されていると感じる人も多いだろう。「大谷の24秒」は逆に時間を、そして試合を支配した。最後の1球を待つ、しびれるようなドキドキ感。それは、ピッチクロックがないからこそ生まれた。(スポーツ部・鈴木 勝巳)

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