【内田雅也の追球】大舞台で重要な自分との対話 頭を整理して結果を出した甲斐、鈴木、柳田ら侍ジャパン

[ 2021年8月3日 08:00 ]

東京五輪第11日 野球準々決勝   日本7ー6米国(タイブレーク延長10回) ( 2021年8月2日    横浜スタジアム )

<東京五輪 野球 準々決勝 日本・米国>10回1死二、三塁、甲斐は右越えにサヨナラ打を放つ(撮影・北條 貴史)
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 サヨナラの場面、甲斐拓也は監督・稲葉篤紀の考えも聞いた「しっかりと頭を整理して」打席に入ったと話した。

 延長10回裏1死二、三塁。相手は中堅手も内野に呼んでの「5人内野」を敷いていた。監督からはスクイズなど策はない、甲斐は外野に運べば……との考えだったろう。低めを捨ててヒッティングゾーンを上げ、外飛を打つ姿勢だった。外角スライダーを強振して引っかけず、フェンス際まで運び、決着をつけた。

 2003年、阪神がリーグ優勝を果たす日の広島戦、監督・星野仙一が赤星憲広に浅い外野陣で「外野に運べば」と助言したシーンを思いだす。あの時も右越えのサヨナラ打で、相当に飛んでいた。

 「頭を整理」して打席に向かう重要性を思う。その「整理」は対話によって生みだされる。

 日本が3回裏2死で降板に追い込んだ米国先発のシェーン・バズが所属する3Aダーラム・ブルズは映画『さよならゲーム』(1988年公開)の舞台だった。

 ベテラン捕手で強打の“クラッシュ”デービス(ケビン・コスナー)が打席で「思い切りひっぱたけ」「大丈夫だ。おまえなら打てる」…と心の中でつぶやきながら本塁打を放つシーンがある。

 イチローが2009年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝、韓国戦で延長10回表、決勝打を放つ打席について、話していた。「今(日本は)ごっつい視聴率だろうなあとか、オレは(ツキを)持っているなあとか。ここで打ったら日本がものすごいことになるって自分の中で実況しながら――」

 緊迫した場面で、ヒーローになることを思い描き、自分との対話「セルフトーク」で自らを奮い立たせ、頭を整理するわけである。

 この夜の5回裏、鈴木誠也は左中間最上段へ本塁打を放った。前の打席まで五輪11打席無安打。日本の4番として責任感が強く焦りもあったろう。だが「おまえならやれる」と言い聞かせていたのではないか。

 4番の一撃はチームを奮い立たせる。直後に奪った1点が日本らしい。浅村栄斗二塁打の後、柳田悠岐は追い込まれてから引っ張って進塁打。1死三塁で深く守る相手内野陣に菊池涼介も追い込まれてから遊ゴロを転がしにいく軽打で追加点を奪った。

 9回裏の同点劇も鈴木の選球(1球も振らず四球)に柳田のボテボテゴロでもぎ取っている。

 状況に応じ、それぞれの打者が「四球ででも出塁」「ゴロでいい」「外飛を上げれば」……と、考えを整理できていたわけだ。

 先の映画はボールの縫い目の数が108個で「ロザリオ(カトリック教会の数珠)と同じ」と紹介する。仏教で言う煩悩の数である。

 禅僧・南直哉(じきさい)が『自分をみつめる禅問答』(角川ソフィア文庫)で禅問答について<老僧と修行僧との間、あるいは修行僧同士の間で、お互いの考えや境地を、対話の中で明らかにしながら学ぶことは大切な修行>と記している。問いと答えにより考えを深めていく。

 <実際には、解決の見込みのないまま際限のない対話と実践が繰り返される>のだが、「問い」を共有することが肝要なのだと説いている。

 五輪などの大舞台では、修行僧のように問い続けること、自分との対話が大切なのだろう。 =敬称略= (編集委員)

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