【内田雅也の追球】「足」が光った「脇役」――阪神の得点を呼んだ陰の力

[ 2020年3月15日 08:00 ]

オープン戦   阪神10―4オリックス ( 2020年3月14日    京セラD )

8回、積極的な走塁で二塁を奪った坂本(撮影・大森 寛明)
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 阪神があげた得点には必ず「足」がからんでいた。実際に走ったものもあれば、走る以前のものもある。列挙してみる。

 ▽2回表無死一、二塁。糸原健斗の左中間に落ちる安打にスタートが遅れた二塁走者ジェリー・サンズだが、力走で本塁を陥れた。一塁走者・福留孝介の三進と打者走者・糸原の「送球間」二進は好走塁だ。公式記録は「二塁打」だったのはさておきたい。おかげで木浪聖也の快打中飛は犠飛となり追加点が奪えた。

 ▽7回表、2死から左前打で近本光司が一塁に出た。相手投手・荒西祐大はけん制がうまい。俊足警戒は当然で、5回表2死一塁では4球もけん制球を放っている。この時もけん制を1球放るなど気を使った。上本博紀の安打に陽川尚将の逆転3ランが生まれた。

 ▽8回表、左前、左中間寄りの安打で二塁を奪った坂本誠志郎の積極走塁が足場。2死一、三塁となり、一塁走者・高山俊二盗で外野は前進守備となった。植田海が浅い右翼手頭上を越す2点三塁打を放った。

 ▽9回表1死、俊足の島田海吏が安打で出た直後、初球を大山悠輔が左翼席に2ランを放った。

 以上、いずれも「足」が相手投手に重圧を与えていたことが分かる。

 同様に、阪神も失点している。先発・中田賢一は勝利投手の権利目前だった5回裏2死、俊足の福田周平に中前打され、直後に中川圭太に逆転2ランを浴びた。

 投手心理は微妙で複雑である。実際に俊足走者が塁上にいたから心が揺れたか、動いたかなどは分からない。しかし、心理戦でもある野球では、こうした小さな陰の力の積み重ねが物を言う。

 試合前、オリックスで野手総合兼打撃コーチを務める田口壮に会った。ニューヨーク支局時代、カージナルスでの奮闘を取材した。オフにセントルイスの自宅を訪ね、マージャンをした楽しい思い出もある。

 大リーグ時代の田口は脇役に徹し、2度のワールドシリーズ優勝に貢献している。2010年のオリックス復帰直後に出した著書『脇役力(ワキヂカラ)』(PHP新書)には苦労話が詰まり、また警句が散りばめられていて読ませる。

 大リーグベンチ入り最後のイス、25番目の選手として<パズル最後のワンピース>としてのあり方を書き、自負をつづっている。
 <自己満足かもしれませんが、「チームが勝てたのは俺のおかげだ」と思っていなければ、ぼくたち脇役は正直なところやっていられません>。

 その点では、この日の脇役たちは胸を張っていい。福留、糸原、近本、坂本、島田……他にもいるかもしれない。そして、脇役が光った試合はやはり勝っていた。        =敬称略=
           (編集委員)

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