【佐藤満の目】吉田、敗因は2つの「誤算」 川井は東京五輪で連覇を

[ 2016年8月20日 09:46 ]

リオ五輪<女子レスリング・53キロ級 決勝>金メダルのマルーリス(左)は涙。銀メダルの吉田も涙

リオデジャネイロ五輪レスリング

 吉田が敗れた原因には2つの「誤算」があった。1つは組み合わせに恵まれたこと。昨年まで2年連続で世界選手権決勝を争ったマットソン(スウェーデン)を筆頭に、強豪選手は反対のブロックで、準決勝までは格下選手が相手。安全策でも順調に突破できた。ところが決勝は一気にレベルが上がった。それでも、初戦からの慎重な戦い方を続けてしまった。

 もう1つは、決勝の相手がマルーリスだったことだろう。4年前の世界選手権決勝で対戦した際、吉田はフォール勝ちしている。だが、相手は昨年の世界選手権55キロ級で優勝したように、伸び盛り。頭の中にあったマルーリスはあくまで4年前の姿であり「いつでもポイントが取れる」という見立てがあったのではないか。ところが、第1ピリオド、片足タックルに入っても切られ、焦りが生まれた。第2ピリオド、相手の攻撃を強引な首投げで切り返そうとして致命的な失点を喫したが、焦らずに切っておけば違う展開になったと思う。

 昨年9月の世界選手権優勝後、出場したのは12月の全日本選手権のみ。しかも53キロ級ではなく、減量のない55キロ級だった。準備を含めた試合勘の鈍りが今大会の焦りにつながったとすれば残念だ。技術的には組み手など、まだ改善できる部分があるが、あとは本人のモチベーション次第。今はご苦労さんと声を掛けたい。

 川井は素晴らしい内容で一気に頂点に立った。本来は58キロ級の選手。粗削りだが63キロ級では素早い動きと、低いタックルがはまった。初戦からポイントを重ねるたびに自信をつけ、大会を通じて最も成長した印象だ。63キロに満たない体重ながら63キロ級で3連覇した伊調のような「世界のモノサシ」が国内に存在していたこともプラスに働いただろう。もちろん、20年東京で連覇を狙える選手。これからは研究されるだろうから、接近戦での組み際の動きなどを磨いてほしい。(88年ソウル五輪フリー52キロ級金メダリスト、前日本男子強化委員長、専大教授)

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