川井梨紗子、初出場五輪で金メダル!階級の葛藤乗り越え、母の夢かなえた

[ 2016年8月20日 05:30 ]

<リオ五輪 レスリング> 金メダルを手に笑顔の川井

リオデジャネイロ五輪レスリング・フリースタイル女子63kg級決勝

(8月18日 カリオカアリーナ)
 女子63キロ級決勝で、初出場の川井梨紗子(21=至学館大)がマリア・ママシュク(23=ベラルーシ)を6―0の判定で破り金メダルを獲得した。本来の58キロ級から階級を移して快挙を達成。同じく初出場で金メダルに輝いた48キロ級の登坂絵莉(22=東新住建)、69キロ級の土性沙羅(21=至学館大)とともに、20年東京五輪に向けて日本女子レスリングの新時代到来を予感させる活躍を見せた。

 決勝の前に栄チームリーダー(TL)からお願いがあった。「勝ったら肩車してほしい」。川井は「肩車の前に投げます!」と宣言した。その約束通り、金メダルが決まるとバシッと一投げ。勢い余り「もう一回いきます」と再び恩師を宙に舞わせ、勝利の味をかみ締めた。

 衝撃的な吉田の敗戦後に始まった63キロ級の決勝戦。しかし川井は目の前で起きた出来事をすぐさま教訓にできるずぶとさとクレバーさを持ち合わせていた。「びっくりしたけど、何があるか分からないと決勝直前に思えた。金を獲りたい気持ちだけはブレないように」

 開始30秒で両足タックルから2点を先制するなど危なげなかった。失点は準々決勝での2点のみ。金メダルを獲得した日本人4選手の中で、最も盤石の勝ち上がりだった。

 本来は伊調に次ぐ58キロ級の2番手だったが、何度も伊調の壁にはね返され、五輪は遠い夢だった。実績などを考えても58キロ級でのリオ五輪出場はほぼ不可能。そこで至学館大の監督でもある栄TLに勧められたのが63キロ級への転向だった。

 伊調を超えたい。でも五輪にも出たい。その思いを母・初江さん(46)に相談すると「五輪のない時代の女子レスリングの人たちの気持ちを思えば、挑戦できる立場にいるのがうらやましい」と言われた。初江さんは女子レスリング黎明(れいめい)期の選手で89年世界選手権の代表。その頃、女子レスリングの最高峰の舞台は世界選手権だった。父・孝人さん(48)も大学日本一に輝いたこともあるレスリング一家。父親は指導に口出しせず、コーチ役は母親が担った。その母親の言葉は心に響いた。

 出たくても出られなかった人たちがいる。悩み抜いた末の転向の決断には「伊調から逃げた」という批判もあったというが、金メダルが全てを帳消しにした。山本美憂ら、母と戦った往年の選手からも激励を受け、五輪で最高のレスリングを披露した。

 試合後は「もう63キロ級は終わり」ときっぱり言った。階級変更はリオまでの期間限定。金メダリストになっても未練はない。伊調は今後の進退を明かしていないが、川井は伊調がいても今度は真っ向から58キロ級で代表を争う覚悟でいる。

 打倒伊調と五輪で迷う時期はもう過ぎた。打倒伊調と五輪の両方をかなえてみせる。栄TLは「2020年の川井の代表入りはかなり確実。川井が引っ張っていくようになっていかないと」とエース候補に指名。吉田と伊調の二枚看板だった日本女子に、確実に新しい風が吹き始めた。

 ▼川井の63キロ級成績 15年に58キロ級から転向。同年の全日本選抜で優勝し、63キロ級での初めての世界大会だった世界選手権ラスベガス大会で2位。今年のアジア選手権で優勝しリオ五輪で金メダル

 ◆川井 梨紗子(かわい・りさこ)

 ☆生まれとサイズ 94年(平6)11月21日、石川県津幡町生まれ。1メートル60。

 ☆レスリング一家 グレコローマン全日本学生王者の父・孝人さん(48)と母・初江さん(46)の影響で、小2から金沢ジュニアで始める。

 ☆3姉妹 自身は長女で次女・友香子、三女・優梨子もレスラー。昨年の全日本選手権女子60キロ級決勝では3歳下の友香子と初対決し、2分51秒でテクニカルフォール。

 ☆経歴 至学館高から至学館大に進学。13、14年に世界ジュニア連覇。昨年の世界選手権は63キロ級で銀メダル。

 ☆ママ禁止 小3から母が金沢ジュニアの指導者に。「ここでママと呼ぶな。先生と呼びなさい」と指導され「川井先生」と呼んでいた。

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