【太田章の目】“若造”樋口、相手が怖がる技の数々「金しか見えない」に嘘なし

[ 2016年8月20日 08:28 ]

<リオ五輪 レスリング>判定で敗れ銀メダルに終わった樋口(上)

 男子フリー57キロ級の樋口は、3―3の同ポイントながら、内容での差で敗れた。素晴らしい試合をしたが、まだチャンピオンには届かなかったという面もあった。

 最後の約1分間、相手が手首をつかんで守ってきたのは事実だが、あれは「2オン1」という両手で相手の一方の手を持つ技の変形で、反則とまでは言えない。確かに相手は逃げていたが、樋口は審判にアピールする前に、どんな状況でもポイントを取りにいかないといけなかったし、手首を取られたからタックルに入れないわけでもない。自分で打開できなかったのが、金メダルと銀メダルの少しの違いだろう。

 ただ、それにしても、よくやったと言いたい。試合前に「金メダルしか見えない」と言っていたのを聞いて、若造が何をと思ったが、その言葉に嘘はなかった。初戦のヤン・ギョンイル(北朝鮮)は元世界王者、準決勝のライミ(イラン)も世界2位の実力者だった。

 世界選手権に出場したことがない樋口は、手の内を知られていない分、通用した面もあったが、セオリーを無視した突然入るタックル、いきなり背後を取る動きなど、びっくりするぐらい、いい技を持っている。決勝も含めて、相手が怖がっていたのが見えた。

 それだけに、このチャンスを逃さずに勝てればよかった。ただ、まだ20歳だけに、どれぐらい強くなるかが未知数という意味で、4年後の東京五輪が楽しみだ。

 わたしが出場した1984年のロサンゼルス五輪で、赤石光生という選手が19歳で銀メダルを獲った。赤石はその後、88年のソウル五輪で4位、92年のバルセロナ五輪では銅メダルを獲得した。樋口には、赤石と同じぐらい、息の長い選手になってほしい。

 (84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪男子フリー90キロ級銀メダル、早大スポーツ科学部教授)

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2016年8月20日のニュース