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こだわり旬の旅

【群馬・館林】祈り、守り、実り…個性豊かな3つの「里沼」を訪ねて癒しの時間

[ 2020年6月4日 14:00 ]

寺院の名前がそのまま付いた「祈りの沼」茂林寺沼。東京ドームの2倍の広さだ(館林市提供)
Photo By 提供写真

 湖や池に比べて地味な沼が主役に躍り出た。栃木県館林市の「里沼」。人間が近づき、集う中で生業や文化が生まれた沼のことで、昨年、日本遺産に認定された。茂林寺沼、城沼など3カ所あり、それぞれ「祈りの沼」、「守りの沼」などの呼び名が付けられ、イメージもアップ。新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令前の某日、新名所に期待に胸躍らせながら向かった。

 沼というと湿地帯にあり、小さく、透明度が低いイメージがあるが、里沼を訪ねるとそんな思いは吹き飛んだ。

 まずは東武伊勢崎線茂林寺前駅から徒歩約10分の茂林寺沼。分福茶釜で知られる茂林寺の北側にあり、面積は東京ドームの2倍以上の約10万平方メートル(湿原部含む)。一帯には湿地や湿原が広がり、周囲1キロの散策コースを歩くと、菱(ひし)や藻などの水草やコイ、フナなどが生息。里沼の原風景を見るようだ。

 そん中で600年前に開山した茂林寺の存在は大きく、参道に22体の愛嬌あるタヌキの像が並ぶ一方で、曹洞宗の信仰の拠点として君臨。同沼は「祈りの沼」と呼ばれるようになったという。

 同駅の1つ先、館林駅から徒歩約20分の城沼は、550年前に築かれた館林城の天然の要害となった「守りの沼」。東西約3・8キロ、南北約0・2キロ(約36万平方メートル)と細長く、徳川四天王の1人で初代同城主の榊原康政の側室・お辻が周囲の嫉みに堪えられず侍女・お松を伴い入水。康政はその死を悼んで弔うため沼の南岸にお辻が愛したつつじを植えたのが名勝「躑躅(つつじ)ヶ岡」(つつじが岡公園)の起こりという伝説が残る。

 同公園前からつつじまつり(4月初旬~5月中旬、今年中止)期間中に運航される渡し船に乗ったが、船は鏡のような水面を滑るように進み、ミニクルーズ気分。とても沼とは思えなかった。

 最後は館林駅で東武小島線に乗り換え、成島駅から徒歩約15分の多々良沼へ。周囲約7キロ、面積8万平方メートルの「実りの沼」で、沼からの用水が田畑の米と麦の二毛作を可能にし、館林が麦の産地になったことに大きく貢献。同時に漁労の場としても人々の暮らしを支え、ナマズの天ぷらやコイの洗いなど、“沼の幸”を活かした個性ある食文化をもたらしたという。

 冬は白鳥が飛来するというが、この日はカモやアヒルなどが多数遊泳。夕陽も美しく、晴れた日には富士山も見えるという。沼の周囲に設けられた約2キロの彫刻の小径を歩くと、38体の彫刻が置かれ高原ムードも味わえ、確かに「実り…」といえそうだ。

 3カ所回ってみれば「静」の茂林寺沼、「動」の城沼、「明」の多々良沼といった感じで、それぞれが個性的で表情豊か。派手さはないが、逆に心が落ち着き、癒やされる。沼も捨てたもんじゃない。コロナ禍が落ち着いたら、もう一度訪ねてみよう。

 ▽行かれる方へ 車は東北道館林ICから約15分。城沼の渡し船は7、8月のハスの時期も運航予定で乗船料700円。問い合わせは館林市「日本遺産」推進協議会=(電)0276(71)4111、館林市つつじのまち課=(電)同(74)5233、同市観光協会=(電)同(72)4111。コロナの影響で変更もあるため確認してください。 

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