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【コラム】西部謙司

長友無双とハイクロス

[ 2014年5月30日 05:30 ]

<日本・キプロス>ドリブルで攻め込む長友
Photo By スポニチ

 W杯への壮行試合、キプロス戦を1-0で勝利した。負傷から回復したばかりの吉田麻也、長谷部誠、内田篤人が45分間プレーして、ブランクを感じさせなかったのは収穫である。この段階でのゲームにしてはどの選手も動けていたし、チームの機能性もこれまでどおりで安定感があった。ここからコンディションを上げていけばいい。

 キプロスは仮想ギリシャとして、ちょうどいい相手だった。引いて守ってカウンター狙いの戦術、ギリシャほど強くもないしラフプレーもしない。 緩い予行演習としてはよかったのではないか。ただ、少し疑問に思うところもあった。

 長友佑都である。左サイドでは相変わらずの無双ぶりで、縦にかわしてそのまま左足でクロスを上げきってしまうプレーはさすがだった。しかし、長友のハイクロスは跳ね返されるかゴール前を通過してしまい、あまりチャンスにはならなかった。クロスの精度の問題というより、単純にゴール前に高さがないのだ。

 日本の攻撃は、意外かもしれないがハイクロスをよく使う。左サイドから香川真司が右足で入れるクロス、右サイドからの本田圭佑の左足のクロス、この2種類のクロスは日本が持っているパターンである。ゴール前に背の高い選手がいないのに、なぜハイクロスを使っているのか。

 攻撃でのハイクロスは単純な高さ勝負ではないからだ。ハイクロスを入れる場所やタイミングによっては、フリーな状態でシュートさせることができる。マークされていても、落下点への走り込みやタイミングのいいジャンプによって競り勝つことも可能だ。香川、本田のクロスはサイドとは反対の足で蹴っている。相手のディフェンスラインの手前から、ファーサイドへ落とすコースだ。落下点に入ってくる味方は、ラインを整えるのと入れ違いに、あるいはボールウォッチャーになっているDFのマークを逃れて走り込む。そこをピンポイントで狙うクロスなので、高さの勝負にはなりにくい。

 長友が縦へ抜けて入れる左足のクロスは、もう少しアバウトである。ただ、縦に抜けたことで相手のディフェンスラインを動かしているので、すでにマークが外れやすい条件はできている。だからコースは大体でもいいのだが、長友のハイクロスは長身のDFに引っかかるケースが多い。それより高く蹴ると味方が届かない。要は、身長差のある相手にはさほど有効でなかったということだ。

 対ギリシャを想定すると、違う攻め方をしたほうがよさそうだ。DFとDFの間にいる味方へどんぴしゃで合えば、ハイクロスでも点になるけれども、あまり高い確率ではないだろう。アジアカップ決勝の李忠成のボレーシュートのような形には、なかなかならない。長友の突破力とクロスボールを有効に使えないのは歯がゆいが、キプロス相手にあれだけトライしてダメだったのだから、ギリシャ戦はやはり違う手を使ったほうがいい。(西部謙司=スポーツライター)

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