名脇役・甲本雅裕 真摯な生き様「役を頂くのは奇跡」“1”の積み重ね「どうする家康」夏目広次役も反響

[ 2023年5月21日 10:00 ]

大河ドラマ「どうする家康」第18話。夏目広次(甲本雅裕)は徳川家康との別れに「殿は、きっと、大丈夫」――(C)NHK
Photo By 提供写真

 嵐の松本潤(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は今月14日、第18回が放送され、主人公・徳川家康が武田信玄に惨敗した「三方ヶ原の戦い」(元亀3年、1573年)の“真実”が描かれた。家康の人生最大のピンチを2部構成で壮大かつ丹念に紡いだドラマ前半のクライマックスの一つ。事務方トップ・夏目広次の忠義と“名前間違い”の理由に、号泣の視聴者が続出。初回(1月8日)から夏目役を好演してきた俳優の甲本雅裕(57)に撮影の舞台裏や今後の展望を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。

 第18回は「真・三方ヶ原合戦」。討ち取られたかに思われた徳川家康(松本潤)。その亡骸は、金荼美具足(きんだみぐぞく)に身を包んだ夏目広次(甲本雅裕)のものだった。

 夜、三方ヶ原の集落。逃げ延びた家康たちが潜んでいるところに現れたのは、夏目だった。家康は思い出した。夏目の名前をいつも間違えるのは、幼少期の記憶があったため。「お主は幼い頃、わしと一番よう遊んでくれた、夏目“吉信”じゃろ!」。三河一向一揆の際、謀反の罪を不問とされた夏目は「足りませぬ。一度ならず二度までも、殿のお命を危うくした。この不忠者を、ここまで取り立ててくださった。これしきの恩返しでは足りませぬ」――。

 24年前、蒲郡の港。夏目“吉信”は幼き家康(竹千代、川口和空)を織田にさらわれる失態(第2回、1月15日)。家康の父・松平広忠(飯田基祐)は夏目に改名を促し、切腹を免じた。

 嫌がる家康から強引に剥ぎ取った金荼美具足をまとい、夏目は「せめて、24年前に果たせなかったお約束を、今、果たさせてくださいませ。今度こそ、殿をお守りいたします」。家康は「駄目じゃ、吉信、駄目じゃ」と嗚咽。夏目は「殿が死ななければ、徳川は滅びませぬ。殿が生きてさえおれば、いつか信玄を倒せましょう。殿は、きっと、大丈夫」。幼き家康に掛けた言葉と同じものを最後に伝え、家康の身代わりとなるべく、敵兵に向かっていった…。

 「三河一向一揆」「伊賀越え」と並び、家康の“3大危機”に数えられる「三方ヶ原の戦い」が、第17回「三方ヶ原合戦」(5月7日)に続いて2週にわたって描かれた。

 放送終了後(14日午後9時)には「夏目広次」がツイッターの世界トレンド7位、「夏目さん」が8位、「夏目吉信」が12位、「夏目殿の名前」が29位、「伏線回収」が43位、「身代わり」が46位にランクイン。甲本の名演が涙を誘い、大反響を呼んだ。

 「踊る大捜査線」シリーズの湾岸署刑事・緒方薫役など、甲本は数々の作品を彩る屈指の名バイプレーヤー。2021年後期のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で初代ヒロイン・橘安子(上白石萌音)の父・橘金太役を好演したのも記憶に新しい。大河出演は、新選組隊士・松原忠司役を演じた2004年「新選組!」以来、実に19年ぶり4作目となった。

 岡山市出身で、俳優の梶原善は同郷の友人。上京後、梶原に誘われ、1989年、三谷幸喜氏主宰の劇団「東京サンシャインボーイズ」(現在は充電期間中)に入団。在籍中は全作品に出演した。

 折しも、三谷氏は昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本を担当。今作について連絡は?と尋ねると「三谷さんからは時折メールが来ることもあるんですが、今回はまだありません。第18回が放送されたら来るかもしれないですけど、もう怖いですね。僕にとっては、この道に入るきっかけをつくってくれた人なので、夏目役をどういうふうに見てくれているのかは気になります」と恩人の反応を楽しみにしている。

 夏目と家康の別れについては「このシーンが始まって終わるまでの間に起きること、すべてに従おう、そして、それを楽しもう。撮影の前に潤くんとすれ違った時、お互い、そういう話をしました。細かい動きなんかは、逆に相談しなかったですね。(第18回演出の村橋直樹)監督にも、泣くかもしれないし、泣かないかもしれないし、どういう動きをするのかも分からないけど、とりあえずやらせてくれませんか、とお願いしました。もちろん、撮影の日までは入念に準備をして、このシーンがどうなるのか、無数の想像を巡らせましたが、いざ芝居に入った瞬間に頭が真っ白。台詞通りにしゃべってはいますけど、バランスを考えながら段階を踏んで芝居を構築していくようなことはなくて、それがプランといえばプランだったのかなと思います」と明かした。

 いわば舞台のようなライブ感覚。「頭でっかちになって物事を進めてはいけないと、いつも思っていて。だから、余計なものは捨てていこう、引き算していこう、と。それは芝居に限らず、人生を生きる上でも同じなんですけど、なかなか難しくて叶いません。ただ今回は、100%ではないにしても、ある意味、近い形でやれたのかなという気はしています。役者としての理想は、やっぱり無意識(の芝居)。死ぬまでにどれだけ近づけるんだろう、と演じてきましたが、今回は少しは近づけたのかなと思っています」と手応えを語った。

 約35年に及ぶ俳優生活。最後に今後の目標を聞くと「やっぱり役者というものは、毎回一つの役を頂くことが奇跡なんだと僕は思っています。なので、これからも一つ一つの役に対して同じ思いで向き合っていければと思います」。それはデビュー当初から変わらないモットーなのか。「変わらないというより、変わりようがないんですよね。一つの役を頂くこと、『0』じゃなく『1』なのが奇跡なわけですから、それに対して毎回全力、全身全霊なのは当たり前で。そういうふうに考えることイコール、自分が役者である、ということなんだと思います。だから、変わりようがないんです。今、あらためて言葉にしましたけど、自分が役者である限り『1』を積み重ねていければなと思います」。名脇役の真摯(しんし)な生き様と控えめな矜持(きょうじ)が垣間見えた。

続きを表示

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年5月21日のニュース