【内田雅也の追球】煩悩も反動もなき1敗 当たり前のことを、当たり前にやっていた阪神に死角はない

[ 2023年6月1日 08:00 ]

交流戦   阪神0―4西武 ( 2023年5月31日    ベルーナD )

<西・神>初回、栗山の打球を処理する佐藤輝(撮影・大森 寛明)
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 ベンチから駐車場まで、ベルーナドーム名物の階段は108段ある。煩悩の数と同じとは、なかなか意味深長ではないか。野球のボールの縫い目の数でもある。勝ちたいという煩悩(欲望)をいかに捨て去るかと問われているかのようだ。

 敗戦後、その長い階段を上り、記者団に対した阪神監督・岡田彰布は息を切らしていた。

 「まあ、そろそろ、と思ってたけどな」と言った。相手先発は今季、救援登板しかない本田圭佑で独特のチェンジアップに手を焼いた。「そろそろ」攻略できるかと思ったが4回で降板。5回以降は1回ずつの小刻み継投で戸惑った。好機はあったが零敗に終わった。

 ただ、この「そろそろ」という言葉を聞いたとき「そろそろ負けるころと思っていた」というふうに受け取った。岡田はいずれ訪れる敗戦を受けいれる覚悟ができていたとみていた。

 7連勝―1敗―9連勝と勝ちまくっていた。岡田は「出来すぎ」と話していた。それに<私には「勝負事は勝ち続けたらあかん」という持論がある>と著書『動くが負け』(幻冬舎新書)に記していた。<試合に「流れ」があるように、シーズン全体にも流れがある><10連勝すると、その後に10連敗する気がするのだ>。実際、現役中の1982(昭和57)年6~7月には11連勝した後、8連敗を経験している。

 <通常ではありえないような連勝をしてしまうと、その後に来るであろう反動が怖いのだ>。だから、用兵や采配で無理しないよう注意を払ってきた。投手陣を含め、まだまだ余力はある。

 選手たちの士気も高い。この夜も好守備がいくつもあった。1点を先取された後の1回裏2死一、三塁で佐藤輝明が三塁線ゴロを好捕して追加点を防いだ。3回裏無死一塁、中野拓夢の二ゴロ併殺は見事だった。7回裏1死一、三塁でのセーフティースクイズを大山悠輔はバックトスの本塁送球で間一髪防いだ。

 打てなければ守る。当然のことだが、実際やるのは難しい。これも岡田が言う「当たり前のことを当たり前にやる」姿勢なのだろう。放った安打はわずか5本だが、打席でよく粘り選び、四球は6個奪っていた。

 つまり、恐れる反動が来るような戦い方ではなかった。負けてなお強しと思わせる1敗だと書いておく。=敬称略=(編集委員)

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