【内田雅也の追球】「予期せぬ爆発」の引き金 佐藤輝の一発と立ち居振る舞い

[ 2023年4月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―8巨人 ( 2023年4月26日    甲子園 )

<神・巨>5回、本塁打を放った佐藤輝がダイヤモンドをまわる(撮影・岸 良祐) 
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 阪神5回裏の反撃は佐藤輝明の今季1号本塁打から始まった。いわゆる反攻ののろしとなった。戸郷翔征に4回まで1安打無得点、6三振と沈黙していた打線があの一発で活気づいた。

 <淡々と試合が進み、盛り上がる場面は断続的にしかやってこないのは野球だけだ。野球は予期せぬ瞬間に爆発する>と米作家トーマス・ボスウェルが『人生はワールド・シリーズ』(東京書籍)に書いていた。他のスポーツは<汗まみれになるような激しいプレーが途切れることなく続いていく>。野球には間(ま)があるということだ。プレーとプレーの合間に選手たちの心は動く。

 佐藤輝の一発は今季、甲子園7試合目でのチーム初本塁打だった。4万超の観衆が沸き、場内の空気が変わった。

 もう一つ、爆発への引き金となった理由に、佐藤輝の立ち居振る舞いがあるとみている。歯を食いしばるような表情でダイヤモンドを回り、ベンチに帰ると“これからだ”とナインを鼓舞するかのように何か叫んでいた。「Zポーズ」や何とかポーズといったパフォーマンスもなかった。

 今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝・メキシコ戦の9回裏、先頭打者の大谷翔平が右中間二塁打し、ベンチに向けて雄たけびをあげた姿に通じる。逆転サヨナラ勝利を呼んでいた。

 佐藤輝に続き、島田海吏、木浪聖也、代打・渡辺諒、近本光司と5連続長短打で3点。梅野隆太郎併殺打の間の1点で計4点を奪った。渡辺諒が「テルがホームランで勢いをつけてくれた」と話したのは実感だろう。

 試合は8回表、長野久義に浴びた3ランで万事休した。その裏、佐藤輝の三振を見届けると多くの観客が席を立った。やはり、それほどの選手なのである。

 ボスウェルは先の書で<この爆発につながる可能性は、平穏な時間のあちこちに潜んでいる>とも記している。

 敗戦後、監督・岡田彰布が「流れを呼んだ」と認めたのは、佐藤輝の一発に加え、その前の及川雅貴の投球だった。先発・西勇輝が3回5失点で降板した後、4、5回を1安打零封、4三振を奪う快投だった。勢いづいていた相手打線を鎮め、流れを変えたのだ。

 誰でも爆発を呼ぶ働きができる。それが野球である。 =敬称略=(編集委員)

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2023年4月27日のニュース