疑惑の「フェア判定」実はナイスジャッジ!? 元NPB審判員記者が検証 カギは「切り返し」

[ 2022年10月23日 12:23 ]

SMBC日本シリーズ2022第1戦   ヤクルト5ー3オリックス ( 2022年10月22日    神宮 )

日本シリーズ<ヤ・オ1>初回、オスナの三塁線への打球に三塁塁審の土山はいったん両手を上にあげるがフェアに判定を変更(撮影・篠原岳夫)
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 SMBC日本シリーズ2022が22日、神宮球場で開幕。初回に微妙な判定があり、オリックス・中嶋監督がベンチを飛び出す場面があった。初回、2死一、二塁でオスナを迎えた場面。三塁線を破った打球は左翼への2点適時二塁打となった。

 三塁塁審の土山剛弘審判員は、一度は両手を挙げかけて「ファウル」としかけたが、すぐさま「フェア」とジェスチャー。これにオリックス中嶋監督がベンチを飛び出して、審判に確認に行ったが、判定は変わらず。リクエストの権利がないプレーのため、リプレー検証などは行われず、そのまま試合は続行となった。ツイッター上では投稿が相次ぎ、「ファール」がトレンド入りする事態となった。

 11年から16年までNPB審判員を務めた記者が、(1)適用する規則(2)判定の正誤(3)ジャッジに至った理由(4)土山剛弘審判員が日本シリーズに選ばれた理由の4点から「ジャッジ」を解説する。
 
(1)適用された規則 

 公認野球規則 定義25「フェアボール」 (b)一塁または三塁を、バウンドしながら外野の方へ超えていく場合に、フェア地域に触れながら通過するか、またはその上方空間を通過したもの。※フェア判定を下す基準点はベース前方のファウルテリトリー側の角
同(c)一塁、二塁、または三塁に触れたもの 

(2)判定の正誤 

 記者は2方向からの映像を確認。左翼方向からのアングルでは判断がつかなかった。打球は三塁ベースを越えてファウル地点でバウンドしたように見え「ファウル」の印象が強く、ネット上が騒然となった理由も理解できる。だが、ベースの上方空間を通過しているかが「ジャッジ」の基準になるため、この映像では白黒はつけることはできない。

 一塁側からのアングルを見る限りは「フェア」である可能性が高い。ベース付近でバウンドした時、打球は大きくファウル側に方向を変えている。記者にはベースに当たって方向を変えたように見えた。それに打球の1バウンド目よりもベースに当たったと思われる2バウンド目の方が強く跳ねている。グラウンドでは地面より強く跳ねる可能性があるのはベースと投手板しかない。ベースに当たっていれば判定は文句なしの「フェア」だ。

 だが、左翼側からの映像、一塁側からの映像のどちらも「100%」と言い切れるものではない。今回はリプレー映像の検証対象外だが、検証においては「スタンド」という考えがあり、明確な映像がなければ現場の審判員のジャッジを優先する運用となっている。これはJリーグの「VAR」にも共通することだ。よって、土山審判員の下した「フェア」の判定は十分に支持できる。

(3)ジャッジに至った理由 

 土山審判員は「ファウル」と手を挙げかけて「フェア」に切り返した。理由は明確。ベースの前方にある基準点を通過した時は「ファウル地点を通過していた」と思ったが、最終的にベースに当たったため「フェア」に切り替えたのだ。実質2つ「フェア」の基準があるために発生した「切り返し」。もう1タイミング待って最初から「フェア」のジャッジを下せばベストだったが、隠れたファインジャッジでもあったと思う。

 大抵の場合、誤審する時は最初の印象だけで判定して「間違い」を突き通してしまうことが多い。「正しいジャッジに」と粘り腰で切り返したことは評価するべきだ。しかもリプレー映像の対象にならないプレーだったため、ベースに当たったと見られる打球を「フェア」とした意義は大きい。ファウルを突き通していたら、もっと大きな騒動になったかもしれない。

(4)土山剛弘審判員が日本シリーズに選ばれた理由

 土山審判員は最高の判定精度で日本シリーズ出場を勝ち取った。今シーズン、リプレー映像検証の対象となった判定で、覆った回数は異例のゼロ。シーズンを通した「パーフェクトジャッジ」で文句なしで晴れ舞台の出場を果たした。

 2011年4月20日の阪神―巨人戦では、巨人・脇谷が落球した打球に対して「アウト」と宣告した土山審判員。「ビデオ判定」がなかった当時、ファンやマスコミから大バッシングを受けることになった。1年契約の審判員。土山審判員は次年度の契約も微妙な状況と目されたが、それからどの審判員、選手よりも早く球場入りし、走りこみ、判定練習を行い「あの日、正確にジャッジできなかった打球」を追い続けてきた。人生の正念場を乗り越えて「100%の精度」に結びつけた苦労人だ。

 今回、ベストなジャッジではなかったが、「フェア」の可能性が高かった打球に対し、最後の最後に切り返せたことには「ナイスジャッジ!」と言いたい。1つの判定が大きな反響を呼ぶ日本シリーズ。審判員には一瞬の隙も許されない。(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

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2022年10月23日のニュース