【内田雅也の追球】オフには“心を動かす”訓練を 同じ「全員野球」の阪神がヤクルトに敗れた「感動力」

[ 2021年12月6日 08:00 ]

1989年、夏の甲子園を取材する阿久悠さん

 日本シリーズが終わって1週間が過ぎた。日本一が決まった夜、美しい涙を流すヤクルト選手たちを眺めながら、ふだん当欄が追う阪神だったらどうだったろう……と考えていた。優勝を逃した阪神と彼らは何が違っていたのだろうか。

 それは、監督・矢野燿大はもちろん選手たちも、オーナー・藤原崇起以下フロント陣も考えるべき問題だ。オフシーズンの宿題である。

 オフの間、野球選手は何をすべきだろう。体を休め、整え、鍛える。大リーグで2度三冠王となった1910―30年代の強打者ロジャース・ホーンスビーは「野球のない冬の間はどうしているのか」と問われ、答えている。「窓の外を眺め、春が来るのを待つんだ」。粋な言葉だが、球春到来を待ちわびる日々を過ごせれば正解だと言える。

 では、オフの間、野球記者は何をすべきかと自問している。答えと言うか、先月発行された延江浩著『松本隆 言葉の教室』(マガジンハウス)にヒントがあった。
 『木綿のハンカチーフ』『ルビーの指環(わ)』『赤いスイートピー』……幾千の記憶に残る歌を手がけた作詞家が言葉について語っている。

 なかに<心を動かす訓練を>とあった。赤い夕日を見て、空が赤から紫に変わっていくグラデーションをきれいと思えるか。<立ち止まって美しいなとじっと見入る人>でありたい。

 <人を感動させるには、まず自分の心を動かすこと>。そして<なぜ動いたのかを問い詰める。その答えを見つけてから書く。そうすると、ああそういうことかと、人もわかってくれる>。
 同じ話を本紙に『甲子園の詩』を連載していた阿久悠が<感動はあるようでない>と書いていた。『歌謡曲の時代』(新潮文庫)=にある。

 夏の甲子園大会で1日4試合、全球見て、1編の詩を書いていた。<正直いって、四試合でも純感動は難しく、準感動に熱を加えて書くことがないでもない>。まさに心を動かして書いていたわけである。毎日試合を見て書く野球記者にも通じる姿勢である。

 いや、これは野球選手にも通じる警句ではないか。今季後半から終盤、ともに「全員野球」を掲げながら阪神がヤクルトに敗れたのは、心を寄せる、いわば「感動力」の差ではなかったか。そんな一丸性を強めるためには「心を動かす」訓練も大切だと思い至った。

 ヤクルトの選手たちがあれほど涙を流せたのは、選手が選手を思い、チームを思い、苦楽をともにしてきたからである。

 もちろん、以前も書いたように、勝負の世界にあって、全員が幸せになることなどない。誰かが試合に出て、誰かが活躍すれば、その裏で悔しい思いをする者が出てくる。

 それでも、やはり、野球は団体の力が物を言う。新しくキャプテンに選ばれた坂本誠志郎が所信表明で「一つの勝ちをみんなで喜んで、一つの負けをみんなで悔しがるチームにしていきたい」と語っていた。坂本は長く控えでいる時も、出ている選手たちを思い、チームの勝利を思って動いていた。心を動かしていたのである。いいキャプテンになるだろう。

 阪神は、感動できるチームでありたい。それが感動を呼ぶチームになるのである。 =敬称略= (編集委員)

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