古豪・桐蔭主将が希望を見た「最後の1点」 103回目の夏を全う

[ 2021年7月21日 16:23 ]

和歌山大会3回戦   桐蔭2―8耐久 ( 2021年7月21日    紀三井寺 )

1回裏2死、同点の生還を果たし雄叫びをあげる桐蔭の主将・青木(21日、紀三井寺公園野球場)
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 7点差をつけられた8回裏、この回無得点ならコールドで敗戦が決まる。先頭で打席に立った桐蔭の主将・青木大宙(3年)は左前打を放った。

 「気持ちを出して向かったら打てた」と、見事なライナーだった。

 二盗を決め、さらに三盗を狙ってスタートを切ると、3番・木村匡佑(3年)の一打が左前へ抜けていった。本塁まで駆け込んだ。コールドを阻止する1点だった。

 「まだ練習してきたことを出し切れてなかったので、最後に何とかしたいと思っていました。打って、走れて……自分の力は出せたと思います」

 矢野健太郎監督は「あれは、すばらしかったですね」とたたえた。「あの1点に3年生の意地を見ました。本当に彼らの思いがこもった1点でした」

 相手・耐久の投手は県内屈指の右腕・冷水秀輔(3年)だった。140キロ台の速球を誇る。矢野監督は「まっすぐ中心でくる。その速いまっすぐを打ち返そう」と対策を練っていたが「相手が一枚上でした」と完敗を認めた。中盤に投手陣が打ち込まれ、思わぬ大差がついた。

 青木は9回裏2死、次打者席で敗戦を迎えた。すぐに気持ちを切り替えるように上を向き、あいさつの整列に向かった。
 青木は「いい高校野球生活でした」と言った。2年時は新型コロナウイルスの影響で夏の選手権大会が中止となった。今年も活動はずいぶんと制限された。それでも「いい3年間でした」と胸を張る。

 3年生は6人と近年では最も少ない。それでも「仲が良く、何でも話せる」と助け合いながらやってきた。そして「僕らは少しもかわいそうとかじゃありません」とはっきり言った。

 矢野監督は「本当にまじめに練習をし、積極的に取り組む選手たちでした」とねぎらった。

 桐蔭のOBで今春4月に就任した。春夏通算36度の全国大会出場、うち3度の全国優勝。名門、古豪……といった重圧もあるだろう。「先輩方が築いてくれた伝統を大切にしながら、時代に合わせて新しいことにも取り組んでいきたい」

 1915(大正4)年の第1回大会から1度も欠かさず出場している皆勤校(全国で15校)の一つでもある。

 「その(皆勤の)伝統は絶やしてはいけません。自分たちの姿を見て“桐蔭で野球をやりたい”と思ってもらえるようにがんばります」と矢野監督は言った。

 青木は中学時代、ダブルスチールなど果敢な走塁をする桐蔭野球にあこがれて入学してきたそうだ。自慢の足で1回裏も同点につながる二盗を決めるなど、最後の試合で2盗塁と走り回った。

 県内有数の進学校。青木は京大工学部志望という。「大学で野球を続けるかどうか考えていましたが、今日でまたやりたい気持ちが強くなりました。最後、気持ちを出せば打てたし、1点が入った。また、やろうかなという気になりました」

 野球の良さを思い返したように、いい顔になった。野球から受験勉強へ、3年生6人は新たな挑戦の夏を迎える。 (内田 雅也)

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