【内田雅也の追球】「かかなべて」の一体感――阪神打ち上げ練習は「連帯歩調」

[ 2020年2月27日 08:00 ]

<阪神春季キャンプ>整列してランニングを行う阪神ナイン(撮影・北條 貴史)
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 1980年代の高校野球界で最強を誇ったPL学園の野球部員は大阪・富田林市内の敷地内にある「研志寮」で暮らしていた。学校から約2キロ離れた専用球場近くにあり、朝の通学時は全員がそろって歩いた。

 「ホチョー、ホチョー、イチニ」という掛け声に合わせ、足並みをそろえた。1984年度の主将、清水孝悦から聞いた。桑田真澄・清原和博「KKコンビ」の1学年上にあたる。清水が「ホチョー、ホチョー」、全員で「イチニ」と声で応じるわけだ。歩調を合わせるための音頭である。

 キャンプ地・宜野座で阪神球団広報の緒方凌介に聞くと「はい。そうらしいですね」と言った。PL学園出身の好打者だが、緒方らが在学中(2006―09年)は野球部員も学校近くの寮だったので「ホチョー」は「伝統として聞いています」と実体験はないそうだ。

 キャンプ練習前の朝になぜ「ホチョー」なのかという意味は分かっていた。「今日のメニューに歩調があるからですよね」と笑った。

 その通り。阪神キャンプ打ち上げ最後の練習メニュー、手締めの前に「連帯歩調」とあった。

 その連帯歩調。選手全員が4列縦隊となった。最初は歩いて足を右、左と合わせ、駆けだした。右翼から中堅と駆け足で掛け声は「イーチ、イーチ、イチニ」「ソーレ」だった。左翼まで外野を1周した。

 昔もやった。その意味は「一体感」だと監督時代の和田豊(現球団本部付テクニカルアドバイザー=TA)が話していた。「全員で駆け足する時でもキャンプ序盤は乱れていた足並みが打ち上げの時にはきれいにそろっている。野球の練習を重ねるというのは、そういうことだと思う」

 なるほど、野球はやはり団体競技なのだと思い知る。最後列にいたボーアやエドワーズら新外国人を含め、見事に歩調がそろい、気持ちいいほどだった。チームになってきた証しだと見てとれた。

 こうした連帯歩調や集団行動を軍隊式だと忌み嫌う声があるかもしれない。だが、自由には規律も必要である。チームとして心が一つになる光景は美しい。

 しかも歩調を合わせるのは簡単ではない。「かかなべて」という『古事記』にもある言葉がある。「日日並べて」で「日数を重ねて」の意味だ。同じ宿で、同じ釜の飯を食い、阪神は「かかなべて」歩調が合ってきたのである。

 何度か少し雨が降った。温かい南国の小雨だった。沖縄には「うりずん」という言葉がある。「潤い初め」(うるおいぞめ)だ。

 季節は二十四節気の「雨水」(うすい)。空から降るものが雪から雨に変わり、雪が溶け始めるころを言う。昔から農耕の準備を始める目安とされてきた。

 秋の豊かな実りを予感しながら、南の島を後にした。=敬称略=(編集委員)

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