ビートルズ「GET BACK」 ロックとは何か?の答え

[ 2022年7月14日 08:30 ]

ドキュメンタリー・エンターテインメント「ザ・ビートルズ:Get Back」(Blu-ray、DVDのコレクターズ・セット)(C) 2022 Apple Corps Limited. Artwork(C) 2022 Disney/Apple Corps Limited.
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】ロックとは何か?その答えが8時間に及ぶ作品の中にあると感じた。13日に発売されたドキュメンタリー・エンターテインメント「ザ・ビートルズ:Get Back」(Blu-ray、DVDのコレクターズ・セット)だ。

 ここには新たな発見と言える映像が詰まっている。見て印象に残ったものを書いていこう。

 新しいアルバムとテレビ特番に向けたリハーサルのためのスタジオ。ポール・マッカートニーがジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの前で「ゲット・バック」の作曲をしている。4弦のベースを6弦ギターのコード弾きのように弾いている姿が珍しい。ジョージがギターで加わり、リンゴが聞き入る。遅れてきたジョン・レノンがギターを手にし、弾き始める。約1年後に解散するバンドの緊迫感はまだうかがえない。ジョンとポールがかつてのライブのように1本のマイクで「トゥー・オヴ・アス」を歌う場面もある。

 スタジオに写真家のリンダ・イーストマンがやって来る。のちにポールと結婚する女性だ。リンダはポールがピアノを弾きながら歌う「アナザー・デイ」を聞き、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の作詞に臨む姿をカメラで撮影する。ビートルズが解散に至る原因の一つとして、ジョンが仕事場にオノ・ヨーコを連れて来るようになったことが取りざたされるが、ポールにも近い状況があったことが分かる。ポールが「レット・イット・ビー」を歌っている時、ヨーコとリンダが親しげに話す場面が興味深い。

 「トゥー・オヴ・アス」の練習中、ジョージが「バンドを辞める」と言いだし、スタジオから去ってしまう。ジョン、ポール、リンゴは昼食に出掛けるが、戻ってくると、ジョージ抜きで練習を再開する。曲は「アイヴ・ガッタ・フィーリング」「ドント・レット・ミー・ダウン」。練習後、3人はジョージを説得することを決めるものの、事態を容易に収拾できない。4人で話し合い、特番を中止にすること、新スタジオで新アルバムを録音することなどを決めると、ようやくジョージが戻ってくる。

 解散危機を迎えたことは確かだが、練習を再開した4人は楽しげで、演奏も充実している。ジョージが「今までこんなに演奏したことはない。指の動きが良くなったのを感じる」と話し、ジョンは「とにかく演奏したい。僕らがちゃんと演奏できるなら、やるべきだ」と、久しぶりのライブに前向きな姿勢を見せる。4人は「ゲット・バック」を何回も演奏し、スタッフから「他の曲を」とアドバイスされても無視してやり続ける。ジョージが「サムシング」の原形を披露し、歌詞を考えていることを明かす。ポール、ジョン、リンゴがデビュー曲「ラヴ・ミー・ドゥ」を演奏する。緊張してしかるべき時にもユーモアを忘れず、「トゥー・オヴ・アス」をずっと変顔、変声で歌い続けたりもする。そこには日本公演をした時のように仲の良い4人の姿がある。

 何と言っても、最高の見どころはスタジオのビル屋上でのライブだ。当日を迎えても、まだ演奏をためらっている様子が生々しい。それでも、ようやく屋上に上がり、「ゲット・バック」「ドント・レット・ミー・ダウン」「アイブ・ガッタ・フィーリング」を演奏すると、ビルの周囲に人が集まる。大音量への抗議を受けた警察官が駆けつけてビル受付で「治安妨害。音を下げないなら逮捕する」と告げる。コンプライアンスに厳しい現在では間違いなく見ることのできない映像だ。4人の演奏は力強く、「アイブ・ガッタ・フィーリング」「ワン・アフター・909」「ディグ・ア・ポニー」はのちにアルバム「レット・イット・ビー」に収められることになる。やがて警察官が屋上まで来るが、4人は演奏を止めない。アンプを切られてもスイッチを入れ直す。リンゴが楽しそうにドラムをたたいている。ライブを終えた4人の表情に満足感がうかがえる。

 予定調和が全くないドキュメンタリー。一歩間違えば崖から転落するような、ひりひりする展開の連続だ。

 ロックとは何か?この作品から導き出される答えは…。アーティストがもがき苦しみながら何かを生み出そうとし、いかなる障害があろうとも音楽に結実させること。ビートルズはそれをやり遂げ、最後に名盤「アビイ・ロード」を残して散った。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

続きを表示

2022年7月14日のニュース