「鎌倉殿の13人」ネット泣き笑い&演出も「まさか」“大姫の呪文再び”の舞台裏 節回しは複数候補あった

[ 2022年12月4日 20:45 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第46話。「尼将軍」となり、実衣(宮澤エマ)を救出した政子(小池栄子・右)。2人は“大姫の呪文”を唱え合う(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は4日、第46回が放送され、ついに政子(小池栄子)が異称「尼将軍」を名乗った。妹・実衣(宮澤エマ)との絆も取り戻し、最後は“大姫の呪文”を再び間違えて合唱。視聴者の泣き笑いを誘った。同回を演出した末永創監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。物語は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」へと向かう。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河8作目にして初主演に挑んだ。

 第46回は「将軍になった女」。3代鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)と公暁(寛一郎)の死により、源氏の嫡流は阿野全成(新納慎也)と実衣(宮澤)の愛息・阿野時元(森優作)ただ一人となった。

 我が子を4代鎌倉殿にしたい実衣の野心を、北条義時(小栗)と三浦義村(山本耕史)が見逃さない。時元を挙兵に追い込み、謀反人として討ち取る謀略。時元は義時が差し向けた兵に囲まれ、自害した。実衣は愛息の謀反に関わったとして詮議され、幽閉が決まった。

 実朝の後継者をめぐり、義時と後鳥羽上皇(尾上松也)の駆け引きが続く。北条時房(瀬戸康史)が軍勢を率いて上洛、揺さぶりをかけた。決着をつけようと、後鳥羽上皇は時房と蹴鞠勝負。結果は引き分け。親王の代わりの者を鎌倉に送ることで手打ちとなった。4代鎌倉殿に決まったのは、九条道家の三男・三寅(みとら、のちの藤原頼経)。わずか2歳だった。

 三寅の元服まで、義時が執権として政を取り仕切るはずが、政子(小池)が制止。「なりませぬ。あなたは自分を過信しています」と自らを指さし「わたくしが鎌倉殿の代わりとなりましょう」「鎌倉殿と同じ力を認めていただきます。呼び方はそうですね…尼将軍にいたしましょう」――。義時も歯向かえない力を手に入れた。

 「どうしてもやっておきたいことがあります。尼将軍の言うことに逆らってはなりませんよ」。政子は実衣を解放した。妹を抱き締め「みんな、いなくなっちゃった。とうとう2人きり。支え合ってまいりましょう。昔みたいに」。2人の絆が戻った。

 「ウンタラクーソワカー。唱えて」(政子)「違う。ボンタラクーソワカー」(実衣)「ボンタラクーソワカー、ボンタラクーソワカー」(2人)。「正しくは、オンタラクソワカである」(語り・長澤まさみ)――。

 大姫(南沙良)の呪文が初登場したのは第21回「仏の眼差し」(5月29日)。奇しくも末永監督の担当回だった。

 りく(宮沢りえ)の待望の男児(のちの北条政範)出産を祝うため、北条家の面々が顔を揃えた。源義高(市川染五郎)を亡くし、心の傷が癒えない大姫は「葵」と名乗り、北条時政(坂東彌十郎)に「おじじ様、元気を出してください。赤ちゃんに命を吸い取られている」。元気になるまじない「オンタラクーソワカー」を唱え、紙に書き留めた。実衣が「今のは何」と尋ねると、全成は「如意宝珠(あらゆる願い事を叶えてくれる宝の珠)ではないかな。縁起のよい呪文だ」と答えた。

 実は、第21回の台本には具体的な呪文の指定がなく、末永監督は芸能指導・友吉鶴心氏に相談。「友吉先生が骨を折ってくださって、呪文の言葉は『オンタラクソワカ』でいきましょう、と。節回しは『この中から好きなものを選んでください』と音声ファイルを6~7個、頂きまして。ホラー風味のものとか、友吉先生が色々と作ってくださって、大姫が口にして面白い感じになる節回しを選ばせていただき、あのシーンが出来上がりました」

 第38回「オンベレブンビンバ」(9月25日)、北条家久々の酒宴。時政は「オンタラクソワカ」を「オンベレブンビンバー」と覚え違い。そこから“思い出し合戦”が始まり、最終的には時政・政子・義時・実衣・時房の5人が「ボンタラクーソワカー」と大合唱。視聴者の爆笑と涙を誘った。

 「もともとは確かな足場がないところ生まれた21回用の台詞だったんですが、三谷さんも気に入ってくださったみたいで、まさか(第38回で)もう一度出てくるとは思ってもみませんでした。そこから、最終的に政子と実衣、姉妹の絆の象徴にまで成長して。46回のラストは当然感動的なんですけど、個人的には今までの流れが脳裏をよぎりまして、一層、胸に迫るものがありました。先日、友吉先生とお会いした時も、お互い開口一番『ビックリしましたね』と驚き合っていました」と振り返った。

 小池と宮澤が初回(1月9日)から積み上げてきた関係性。「このシーンに関して言えば、僕からお願いしたことは特にありませんでした。宮澤さんはカメラを構えないリハーサルの段階から涙があふれ出るぐらい熱が入っていて。何回も確認していると、これは水分がなくなっちゃうぞ、と(笑)。本番は一発撮りに近い形になって、お二人があうんの呼吸で見事に演じてくださいました」と明かした。

 第46回のポイントの1つが実衣。実衣も夫・全成、息子・頼全(小林櫂人)、乳母として手塩にかけた源実朝(柿澤勇人)、息子・時元が謀略に巻き込まれて落命した。

 北条と比企の争いの中、京で修行中だった頼全は全成の陰謀に加担した疑いにより、源仲章(生田斗真)の沙汰の下、討たれた。しかし、その後、実衣は三善康信(小林隆)に代わる幼き実朝の和歌の師匠に仲章を連れてきた。

 第46回も実衣の“政治的センス”のなさが裏目に出たが、末永監督は「実衣が愛する人のために取ってきた行動も、結局は空回り。権力争いに翻弄される姿に、これは悲しい人だなと感じていました。ただ、そこを雑に表現してしまうと、実は仲章が息子を討っていたことや46回の義時・義村の策略など、実衣は単に状況が見えていない、政に長けていないからから、つらい目に遭った、と映りかねない。冷静に見れば愚かな選択をしているんですが、それだけじゃない実衣の儚さが出るように心掛けました」と狙いを説明。

 政子が監禁部屋に会いに来た時、実衣は「早く殺して。時元に会って、母のしたことを侘びたいの。今すぐ殺して」と口走る。

 「ここの宮澤さんのお芝居が非常に素晴らしくて。時元を鎌倉殿にしようとしたことだけじゃなく、初回から46回まで自分の至らなさで失敗したすべてのことに対する実衣の『ごめんなさい』がひしひしと伝わってきて。これなら、視聴者の皆さんも実衣の儚さに寄り添っていただけるんじゃないか思いました」。序盤は“ツッコミキャラ”だった実衣の集大成を、宮澤が体現した。

 ◇末永 創(すえなが・そう)1994年、NHK入局。東京・エンターテインメント番組部(当時)を振り出しに、秋田放送局を経て、2002年からドラマ部。大河ドラマに携わるのは13年「八重の桜」(演出・10話分)、15年「花燃ゆ」(演出・14話分)に続いて3作目。「鎌倉殿の13人」は第4回「矢のゆくえ」(1月30日)、第7回「敵か、あるいは」(2月20日)、第12回「亀の前事件」(3月27日)、第16回「伝説の幕開け」(4月24日)、第21回「仏の眼差し」(5月29日)、第27回「鎌倉殿と十三人」(7月17日)、第33回「修善寺」(8月28日)、第36回「武士の鑑」(9月18日)、第42回「夢のゆくえ」(11月6日)、第46回「将軍になった女」(12月4日)を担当した。

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