「カムカムエヴリバディ」悲しみのヒロイン 演出側「気持ちが少しずつほどけていく」

[ 2021年12月29日 08:00 ]

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、心に深い傷を負ったるいを演じる深津絵里(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の年内の放送は28日で終わった。次回放送は年明けの1月3日。しばらく物足りない朝を過ごす視聴者が少なからずいるだろう。

 前週にヒロインが上白石萌音から深津絵里に交代。時代は1950年代から60年代となり、舞台は岡山から大阪に移った。

 深津の初登場は鮮烈だった。今月22日放送の第38回。安子(上白石)が、娘のるい(子役・古川凛)から「アイ・ヘイト・ユー(大嫌い)」と決別の言葉を告げられ、元米軍将校のロバート(村雨辰剛)に米国同行を懇願。主題歌「アルデバラン」が流れた後、勇(村上虹郎)が河川敷で「るい」と呼び掛けると、振り向いたのは、大人になったるい(深津)だった。

 演出の安達もじり氏は「どうしたら、るいを印象的に登場させられるか、考えた。あの場面は、安子と別れてから十年以上たっている。背中のたたずまい、振り返った時の表情を大切に撮りたいと思った」と話す。

 制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーは週の途中でのヒロイン交代について「つながっている感じを出せた。安子の物語が終わって、すぐにるいの物語を立ち上げることができた。ヒロインのバトンタッチとして良い形だった」と語る。

 作風の変化も激しかった。大阪編の幕開けとなった23日放送の第39回。安子の義父の千吉(段田安則)が亡くなる場面まではモノトーン気味の映像だったが、るいが大阪の街を歩く場面でカラフルな映像に転換。まるでミュージカルのように、るいが楽しげに子供たちと踊る姿が描かれた。

 ミュージカル風の場面の導入は作者の藤本有紀さんの考え。制作統括の堀之内氏は「世界が変わったことの表現としてのミュージカルだが、その見せ方に驚き、すてきだと思った。あえてガラリと変えるところに、エンターテインメントはこうあるべきだという藤本さんの考えがうかがえる」と説明する。

 演出の安達氏も「内容的にしんどいシーンが続いたので、明るくしたいという思いがあった。出演者も変わるので、思い切って変えても良いのではないかと考えた」と話す。

 オダギリジョーの登場は奇抜だった。るいが勤めるクリーニング店の客の1人だが、正体不明で、るいが洗濯物に糸で「宇宙人」と縫い付けたことから、オープニングのクレジットには「宇宙人 オダギリジョー」と異例の表記。28日放送の第42回のラストで、「宇宙人」がトランペットを吹く姿を、るいが目にした。

 これまでも音楽はこの物語の中で重要な役割を担ってきた。これから、るいとトランペッターの関係はどうなるのか、音楽はどのような影響を及ぼすのか…。今後の見どころになるだろう。

 安達氏は「この先、小さなことの積み重ねで、るいの気持ちが少しずつほどけていく」と話す。

 るいの心の傷の治癒がこの物語の重要なテーマ。新年早々から目を離せない展開が続きそうだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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