さいとう・たかをさん 弟子が告白“空白の2年”の後にゴルゴは生まれた

[ 2021年12月29日 05:30 ]

激動2021 芸能(5)

さいとう・たかをさん
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 「ゴルゴ13」の漫画家さいとう・たかをさんが9月24日、膵臓(すいぞう)がんで亡くなった。享年84。掲載誌ビッグコミック(小学館)編集部は、巨匠の死と同時に作品の継続を発表した。さいとうさんは生前「自分抜きでもゴルゴは続けてほしい」と周囲に伝えていたという。漫画制作の現場にいち早く分業制を持ち込んだ先駆者の思いは、作者不在で連載が続く究極の形で結実した。

 一時は約40人の大所帯を抱えたともいわれ「さいとう・たかを本人は描いていない」と漫画ファンの間では都市伝説のように語られた。だが、実は本当に描かなかった時期もあったようだ。

 さいとうさんが大阪から上京直後の1959~60年に師事した、「処刑人ゴッド」「豹マン」「黒バイ将軍」などの漫画家南波健二さん(81)は「先生はネーム(コマ割りとセリフを記したコンテ)を机にポンと置いて出掛け、戻ってこなかった」と当時を振り返る。師匠の絵を必死に模写して絵柄を覚え、下書きからペン入れを担当。さいとうさんの代表作の一つ「台風五郎」はこの時期、全て南波さんが描いたという。

 「先生は2年間全く描かなかった」。高校卒業直後の少年は人気作家を代筆する重圧と膨大な仕事に疲弊し、師のもとを離れた。
 描かなかった理由は半世紀後の2014年、本人から「重圧で行き詰まり描けなくなっていた」と聞かされた。「劇画」の舞台が貸本漫画から東京の大手出版社に移り始めた漫画界の激動期。次の動きを模索する中で深い悩みを抱えていたようだ。

 ただ、この“空白の2年”に漫画制作集団「さいとう・プロダクション」の原型になった。南波さんによると「僕が出た後、先生はバリバリ描き始めたと聞いた」。複数の作画チームを作り、それぞれにチーフを配置。脚本は外部に協力を依頼し、自身は脚本・構成・作画の全行程を担当、監督した。そして1968年「ゴルゴ13」が誕生する。

 さいとう・プロは大量の作品とともに、「子連れ狼」「修羅雪姫」の小池一夫さんや、「がんばれ元気」「あずみ」の小山ゆうさん、「実験人形ダミー・オスカー」の叶精作さんら有名漫画家、原作者を世に送り出した。

 南波さんによると、晩年のさいとうさんは腕の骨折や糖尿病、複数のがんを患うなど満身創痍(そうい)だった。それでも毎年、11月の誕生パーティーで元気な姿を見せていた。在りし日を思い「先生は何を描いてもうまいし、何より話を面白く構成する力が凄かった。僕も勉強させてもらったし、漫画界に残したものは計り知れない」とその功績を称えた。

 ■2021年前半に死去した主な著名人■

 【笑福亭仁鶴さん(享年84)8月17日死去(落語家)】上方落語界の重鎮。ラジオ、テレビで活躍し、NHK「バラエティー生活笑百科」でのフレーズ「四角い仁鶴がまぁ~るくおさめまっせ~」は有名。吉本興業が全国区となる礎を築いた「吉本中興の祖」。

 【千葉真一さん(享年82)8月19日死去(俳優)】体操で鍛え抜いた体を駆使し、危険極まりないアクションを全て自分で担当。68年「キイハンター」で人気沸騰。海外の大スターも「サニー千葉」と呼び、ほれ込んだ。03年の米映画「キル・ビル」に出演し、ハリウッドスターに剣術を指導。

 【チャーリー・ワッツさん(享年80)8月24日死去(英バンド/「ローリング・ストーンズ」ドラマー)】ジャズの影響を受けた独特な奏法で、他のバンドでは出せない味わいをもたらした。不良のイメージが定着したバンドでは異色の物静かな紳士。米ローリング・ストーン誌「歴史上最も偉大な100人のドラマー」(16年発表)で12位。

 【すぎやまこういちさん(享年90)9月30日死去(作曲家)】人気ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を30年以上担当。今夏の東京五輪開会式で使用されて話題になった。自身も熱烈なゲームマニア。フジテレビ時代から作曲活動を始め、「亜麻色の髪の乙女」などポップスも手がけた。

 【柳家小三治さん(享年81)10月7日死去(落語家)】とぼけた味わいと、卓越した人物描写を持ち味とする江戸落語の大看板。「死神」「大工調べ」「芝浜」など多彩なレパートリー、長いまくらの面白さにも定評があり「まくらの小三治」の異名も。14年、落語界3人目の人間国宝に。

 【白土三平さん(享年89)10月8日死去(漫画家)】「忍者武芸帳」「カムイ伝」など忍者や剣客が活躍する漫画の第一人者。忍法や剣技描写のリアルさに加え、差別や迫害との闘いも描き、全共闘世代の若者から熱烈な支持を得た。創刊に携わった漫画誌「ガロ」で後進の育成にも貢献。

 【細木数子さん(享年83)11月8日死去(占い師)】六星占術をベースに独自の理論を確立し、多くの著名人が相談に訪れた。2000年代は多くのテレビ番組に出演。ご意見番として人気を博し、「視聴率の女王」の異名も。「地獄に落ちるわよ!」と過激な言葉でお茶の間をくぎ付けにした。

 【瀬戸内寂聴さん(享年99)11月9日死去(作家、僧侶)】不倫からの離婚、女流作家としての活躍、突然の出家、と波瀾(はらん)万丈の人生。「夏の終り」など人間の愛と業を描く作品や「源氏物語」の現代語訳を手がけた。京都の「寂庵」での説法には多くの人が集まり、芸能人や著名人も救いを求めた。

 【中村吉右衛門さん(享年77)11月28日死去(歌舞伎俳優)】歌舞伎界屈指の立役として知られ、深い人物造詣と巧みなセリフ術で常に観客を魅了。歌舞伎ファン以外にも「鬼平犯科帳」シリーズに主演し人気に。11年「歌舞伎界で最も技量を持った役者」と評価され人間国宝に認定。

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