美原・上中翔瑛、最後の夏 目標のホームランは打てなくても、憧れの「新井さん」が見てくれた―

[ 2022年7月17日 18:00 ]

第104回全国高校野球選手権大阪大会・2回戦   花園7ー0大阪府教育センター付・美原 ( 2022年7月17日    くら寿司スタジアム堺 )

<大阪府教育センター付・美原VS花園>大阪教育センター付・美原の連合チームナインと記念写真に納まる新井貴浩氏(後列中央)
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 野球の神様からの贈り物だった。

 美原の上中翔瑛(うえなか・しょうえい=3年)は驚きのあまり言葉を失い、再びこみ上げた。「見た瞬間に涙が出て…」。乾きかけた悔し涙を感激の涙が覆った。部員1人の孤独な冬を乗り越え、連合チームで挑んだ最後の夏。奮戦及ばず、7回コールドで初戦敗退した。「2番・中堅」で出場し、3打席凡退に終わった。敗戦後の球場外周。最後のミーティングを終えた後、予想もしていない人が現れた。

 広島、阪神で通算2203安打、319本塁打を記録するなど活躍した新井貴浩氏(45=本紙評論家)が球場を訪れたのは、7月初旬に、ある新聞記事を読んだからだ。<部員1人になり、監督との間で「引退までにホームランを1本打つこと」を目標に設定。打撃動画をSNSに投稿し、助言も募った。憧れたのが小学生の頃に甲子園球場で目の当たりにした阪神時代の新井氏の豪快な打撃。春には1年生が2人加わり、連合チームでは主将を任された>という内容だった。

 「長男と同世代で、心を打たれた。頑張っている姿を見たい、できれば会って、ひと言でもかけたい、と思った。攻守交代で全力疾走し、守備位置に就くたびに帽子を取って一礼。バックアップにも必死で走る。彼の姿を見て、どう野球と向き合ってきたのか改めて分かった。孤独で苦しいこともあった中で本当によく頑張ったと思う」

 憧れの人がバックネット裏にいることは、もちろん知らなかった。最終打席は0―7の6回2死。初球から強振し、ファウルを重ね、最後もフルスイングで空振り三振した。「いいスイングだった。ホームランは打てなかったけど、次のステージで“ホームラン”を打ってほしい。目標は達成すること以上に、目標へ向かって頑張ることが大切だと思う」。大きな手で肩を抱かれ、直接もらった励ましの言葉に、また涙が出た。

 「(部員1人の頃は)目が覚めたら体を動かしたくない感じで部活に行っていた。怒られて、悪循環で、またしんどくなって…。一番辛かった。続けられたのは野球が好きだったことと、乗り越えて頑張ったら、最後にはいいことがあるかな…と思って。心の中でずっとそう思い続けて頑張ってきた」

 試合は勝てなかった。目標の本塁打は打てなかった。でも、懸命に頑張り抜けば、誰かが、どこかで見ていてくれることを知った。「しんどいことがあったけど、続けて良かった」。野球は高校で引退。憧れの人と握手を交わし、前を向いた。

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2022年7月17日のニュース