【内田雅也の追球】加治屋と島田 三日月の夜の雪辱

[ 2022年6月2日 08:00 ]

交流戦   阪神5ー4西武 ( 2022年6月1日    甲子園 )

<神・西>4回1死一、二塁、呉の右前打をさばき、本塁に送球する右翼手・島田(撮影・坂田 高浩)
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 三日月の夜だった。雲の多かった甲子園の空ではほぼ隠れていた。ただ、今は細く欠けているが日に日に満ちていく月は、古くから成長や発展の象徴としてとらえられている。低迷する阪神に求められる姿勢である。

 加治屋蓮と島田海吏を書きたい。0―2で敗れた前夜、8回表に痛恨の2点目を失った投手と右翼手だ。加治屋は森友哉に右前打され、島田は油断や焦りからか本塁送球が乱れ、間に合わなかった。当欄で継投策(続投)問題と守備での心構えを取り上げていた。

 そんな2人が一夜明け、やり返してみせた。悔恨と反省を生かした不屈の姿勢に感じ入る。

 1点差で逃げ切ったこの夜、最大のヤマ場は6回表だった。先発・西純矢から渡辺雄大と継投に出て、5―1の1死満塁で加治屋登板となった。

 代打・中村剛也、代打・栗山巧に連続短長打を浴び5―4と1点差。なお1死二、三塁。前夜から浴びた適時打3本はすべてフォークだった。

 しかし、ここから踏ん張った。若林楽人をそのフォークで三振。四球をはさみ、愛斗を直球で右飛に取って切り抜けた。

 1点リードを死守したお陰で、7回以降は勝ち継投の3投手で逃げ切れたのである。監督・矢野燿大も前夜の雪辱を信じて見守っていたろう。

 島田は1番抜てきに応える3安打を放った。1回裏は二盗(ヒットエンドランか)を仕掛けて中野拓夢の安打で三塁に進んだ。4回裏には右前打で果敢に二塁を奪う好走塁(二塁打)を見せた。持ち味の俊足が光った。

 それ以上にいいものを見た。4回表の守り。1死一、二塁で呉念庭(ウーネンティン)に右前打を浴びた。一、二塁間をゴロで破られる前夜と同じ打球だった。

 島田は猛然とチャージし、素早く本塁へノーバウンド送球したのだ。前夜の緩慢さとゴロのような送球とは月とスッポンで、場内から歓声が湧き上がった。二塁走者・愛斗は三塁にとどまり、この回無失点でしのいだ。

 人間は誰もが失敗をする。特に野球は失敗の多いスポーツである。だから人生に似ている。

 三日月を校章にしている関学大出身の近本光司に聞いてみればいい。その意味は「不完全な者だが、絶えず向上していきたいとの願いをこめています」と同校ウェブサイトにある。 =敬称略=(編集委員)

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