打倒、プロ編成の韓国 “現代のミスターアマ野球”佐竹功年のアジア大会へのこだわり

[ 2018年8月28日 16:57 ]

ジャカルタ・アジア大会野球日本代表、佐竹功年投手
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 ジャカルタ・アジア大会でどうしても取材したい人がいた。野球日本代表の佐竹功年投手(トヨタ自動車)だ。ジャカルタのメーン会場から自動車で30分ほどの距離にあるラワマングン野球場を28日に訪れた。タイに24―0で勝利しA組1位通過を決めた。球場から出てきたジャパンのエース格を呼び止めた。

 「佐竹さーん」

 目が合った。

 「あ、お久しぶりです」

 まさか、覚えてくれているなんて。うれしかった。

 野球担当時代の2006年に、先輩記者に連れられ一緒に食事をしたことがあった。「プロに行きたいです」。早大からトヨタ自動車に入ったばかりのルーキー右腕に、そう熱弁された思い出がある。都市対抗野球などでも取材をした。その程度ながら、よく覚えてくれていたものだ。

 野球の取材現場にいた09年まで、気迫あふれる魅力的な投手という目で見ていた。香川県は小豆島の土庄高校出身。1メートル69の小柄な体から、スピンが効いた威力ある直球を投げ込んでいた。当時と比べて、今は腕の振りがコンパクトになったものの、34歳になった今でも輝きを放ち続けている。個人の栄冠も数々手にした、社会人を代表する投手だ。

 国際大会の経験も豊富で、アジア大会は14年仁川大会(韓国)に続いて2度目になる。この大会は、社会人選手が日の丸を背負える最高峰の舞台。プロが五輪に出るようになり、アジアNo.1を奪うことが今の大きな使命になった。その思いを打ち明けた。

 「4年前にアジア大会に出て、韓国のドリームチームを見ました。この相手を、日本の社会人野球が倒すことに意義があると思っています。オリンピックはプロが出るようになり、社会人のレベルの高さを見せられるのは、あの韓国を倒すことだと思っています。僕たちが負ければ、プロの2軍を出せばいいという話になるかもしれない。それは悔しい」

 日本の最大のライバルは、リーグ戦を中断して、メジャーリーガーをのぞく国内最強のメンバーで出場している。力の入れ方は、過去の実績が証明している。現在、2連覇中で通算4度の優勝を誇る大会の盟主である。日本の優勝は種目入りした94年の1度だけだ。

 前回大会は、韓国と対戦する前に台湾に敗れた。その悔しさを知るのは、選手、スタッフを含めて今の代表で佐竹だけ。「4年前に出てから、韓国を倒したいという思いでやってきた」。1次リーグは組が分かれたため、まだ対決はない。4チームで争う30日以降に、2回ぶつかる可能性がある。韓国戦のマウンドに上がることを、右腕は望んでいる。

 代表の杉浦正則コーチ(50)は、代表における佐竹の存在の大きさを口にした。

 「視野が広くて年下の面倒も見てくれる。国際経験も豊富。いい影響を与えてくれている。投手は若手が中心。佐竹から投球を学ぼうとする選手もいる。プレーヤーとして我々が信頼をしているのは当然で、そこに人間的にも大きな役割を果たしている」

 ご存じの通り、杉浦コーチはプロの誘いを断って、社会人野球にこだわった野球人。かつてプロが出られなかった五輪で、金メダルを取ることに情熱を注いだ。その生き方から、「ミスターアマ野球」と呼ばれた。

 アマチュアで骨を埋めようとする姿勢、どこかかぶらないだろうか――。佐竹にそう聞くと恐れ多いとばかりに、否定した。

 「杉浦さんは誘われてプロに行かなかった方で、僕は行きたくても行けなかったタイプ。時代も違いますし。でも、社会人野球の素晴らしさを、日本の人に知ってほしい思いはあります。プロとは違った一発勝負の真剣さです。40歳のおっさんも全力疾走しますから。その魅力を知ってもらうためには、存在感を出さなければいけないと思っています」

 杉浦コーチは五輪の金メダルを目指す一方で、最強国と言われたキューバを倒すことにもこだわった。佐竹は今、プロで構成する韓国に勝つことを目標に掲げる。こじつけと言われても、2人の“つながり”を感じずにはいられない。新旧の「ミスターアマ野球」のジャカルタでの戦いは、ここから本格化する。(倉世古 洋平)

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