【コラム】西部謙司

日本代表監督 分析も総括もなしに結論ありきの不思議

[ 2024年2月23日 06:00 ]

イラン戦の試合後、喜ぶイランサポーターを背に厳しい表情の森保監督(撮影・西海健太郎)
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 アジアカップ準々決勝で日本代表はイラン代表に負けて敗退した。

 敗れたのは不思議ではない。試合後に田嶋幸三会長が「日本がドイツ、スペインに勝ったようにアジアカップで敗れることもある」と言っていたそうだが、それはそのとおりだと思う。現在の日本は世界の強豪に勝つことができる一方で、さほど強豪でないチームにも負けることがある。これは得手不得手がはっきりしているからで、苦手なタイプの相手には総合力で優っていても負けやすいということ。アジアカップではイランだけでなくイラクにも同じような戦法を採られて負けている。

 優勝を公言しながら、早々に敗退したことで森保一監督への批判が沸き上がり、敗因についてもメディアやSNS等であれこれと分析が行われている。これもいつものことであり、全く珍しくもないし、ましてや不思議でもない。

 不思議、あるいは違和感をおぼえたのは、イランに敗れた直後に「(監督の進退については)それは全く考えていません」と、田嶋会長が明言したことである。

 森保監督は「優勝」を目標に掲げていた。ただ、協会としてはそれがノルマだったわけではないのだろう。アジアカップの成績に関わらず、次回W杯まで森保監督でいくのが規定路線であるようだ。ただ、敗戦直後に解任の可能性を全否定してしまったのはいかがなものかと感じた。

 協会には技術委員がいる。アジアカップの敗因を分析し、今後の対策を立案する役割があるはずだ。分析のスタッフだっている。そうしたテクニカルな専門家が分析し、意見を集約した結果、「監督を解任したほうが良い」という結論になる可能性はゼロではない。

 イラン戦での采配については森保監督自身が非を認めている。劣勢の中、ベンチがチームを上手く助けられなかった。前回のアジアカップ決勝でもほぼ同じことが起きている。また、カタールW杯以降に取り組んできたはずのビルドアップが機能不全に陥ったことも小さな問題ではない。こうした明確な課題をテクニカル・スタッフが見落とすわけはなく、これらを解決するには監督を交代したほうが良いという結論になってもとくに不思議ではない。

 ところが、大会の総括や分析も待たずに、会長が継続を明言してしまった。もちろん最終判断をするのは会長になるわけだが、何の議論もないまま続投を明言するのは、技術委員だけでなく、熱心に応援してくれるファンを無視しているようにさえ感じられる。「全く考えていません」ではなく、よく考えてから結論を出すべき案件であるはずなのだ。

 森保監督は解任などされないし、それははじめから決まっていた。会長は監督への信頼が揺るぎないことを示したかった。そういうことなのだろうが、それは内輪の論理だ。カタールW杯の目標だったベスト8は未達、アジアカップ優勝も未達。さらに以前から垣間見えていたさまざまな問題も露呈している。ファンが「大丈夫か?」と思うのはむしろ当たり前で、詳細な分析もしないうちから「大丈夫!」と力強く言い切られても、かえってしらけるばかりだろう。

 これはたんに言い方の問題というより、サッカーとは関係ない論理で当然のごとく物事が進められている状態が端的に表れたのではないか。ただ、ファンはもうそんなことには慣れてしまって、とくに不思議とも思わなくなっているのかもしれないが。(西部謙司=スポーツライター)

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