王手かけえびす顔 藤井王将 見えたタイトル防衛 第6局後手番制して決める

[ 2023年2月28日 05:14 ]

石見神楽の演目にちなみ、鯛のかぶりもので恵比須さまに釣り上げられる藤井王将(撮影・三島 英忠、西尾 大助、河野 光希、藤山 由理)
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 藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=が羽生善治九段(52)を101手で下し、3勝2敗で2期目へ王手をかけた第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)第5局から一夜明けた27日、対局会場の島根県大田市「さんべ荘」で勝者の写真撮影に臨んだ。ここまで先手が勝利し合って3月11、12日に佐賀県上峰町「大幸園」で迎える第6局は藤井が後手。「番勝負を制するにはどこかで後手番を勝たないと」と初のブレークで初防衛への意欲を語った。

 さんべ荘自慢の温泉で、恵比須(えびす)と初共演した。王将戦名物、勝者の記念撮影は、同じ島根県の松江市に総本宮・美保神社がある恵比須の鯛(たい)のかぶりもの。

 「昨日、目撃してました。でもまさか自分がかぶるとは思いませんでした」。実は前夜の入浴前、スポニチカメラマンの仕込みに遭遇。鯛のかぶりものを発見していた。加えて第69期第2局、勝利した広瀬章人八段(36)が露天風呂に入った一枚は研究済みだった。以来まだ3期の短さから今回入浴はないはずとの対局に通ずる読みを発揮し、不安視はしなかったという。

 先手番をキープし合った第5局にして初めて、その利を逃す危機に直面した前日の激戦。羽生の十八番、後手横歩取りに進んだ将棋を振り返り、「終盤がお粗末でした。ちゃんと着地しないといけなかった」。優勢から一時劣勢へ転落した終盤戦を反省した。

 結果的に今期は先手が勝利し続け、第6局は藤井が後手。「番勝負を制するにはどこかで後手番を勝たないといけないので」と初ブレークへの意欲を語った。第1局の開始前に振り駒を行い、先後を決めた後は第7局に決着がもつれ込んだ場合にのみ公平を期すため再度振り駒を行う。

 シリーズも大詰めを迎えた。これまでの5局で特筆すべきは全て違う戦型へ進んだことだろう。一手損角換わりに相掛かり、雁木(がんぎ)、角換わり腰掛け銀、そして横歩取り。全て羽生の戦型選択を藤井が迎え撃った。

 92年の第41期、当時の南芳一王将に挑んだ谷川浩司竜王は7番勝負開幕前、「全局違う戦法で戦いたい」と宣言した。第1局の四間飛車こそ敗れたが第2局以降、矢倉、横歩取り、ひねり飛車、中飛車を制して初挑戦奪取をかなえた。

 その史実を伝え聞いた藤井は「大胆ですねえ~」と笑顔。戦型選択を相手に委ねるスタイルを貫くことから、羽生の出方次第で戦前宣言はしてないが、全局違う戦型になる可能性はある。史上最年少5冠に永世7冠が挑む、歴史的7番勝負にふさわしい見応えが盤上に展開されている。(筒崎 嘉一)

 ≪重要対局続く3月≫第5局で2月の対局を終えた藤井は3月も重要対局が続く。2日に名人初挑戦をかけたA級順位戦の一斉対局が静岡であり、2敗で広瀬と並ぶ藤井は稲葉陽八段(34)に勝てば広瀬とのプレーオフ以上が確定するが、敗れると最大5人のプレーオフとなる。5日は2勝0敗で奪取へ王手をかける棋王戦第3局が新潟で。11、12日に王将戦第6局があり、この2冠の行方とともに順位戦がプレーオフになった場合は一気に対局数が増える可能性がある。

 ≪先手の勝率51.7%≫先手番はどこまで有利なのか。今年度の全公式戦を見ると先手の勝率は51.7%。微差、いや誤差としか言えない数字だが、藤井は27連勝中で30勝1敗。同じタイトルホルダーの渡辺明名人(38)=棋王との2冠=は13勝10敗、永瀬拓矢王座(30)は21勝10敗と程度の差はあれトップ棋士ほど先手有利は疑えない。第5局の勝利を受け、藤井は「以前から戦型選択しやすいメリットは感じた。コンピューター将棋でも先手が勝ちやすいようで、競技の根本的な部分でそうなのかも」との見解を示した。

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2023年2月28日のニュース